原作は「氷菓」「愚者のエンドロール」まで読了。
(以下ネタバレ)
――奉太郎が、デレた。(ナレーション:田口トモロヲ)
いやいや、良い最終回でした。
急遽えるから生き雛の一団の傘差しの代理を頼まれた奉太郎。慣れない地元の寄り合い染みた雰囲気の中、借りてきた猫のようになりながらもさりげなく存在感を出す奉太郎。一同の長老格の老人にはなにやら気に入られるし。これってただの代理以上の意味があったりして……。
トラブルがあったものの無事生き雛の行進が始まる。お内裏様役が入須というサプライズに目を見開く奉太郎だったが、その後に出てきた雛に扮するえるの姿を見て思わず言葉を失う。
ああ――
しまった
よくない、これはよくない
多分、なんとしても俺はここに来るべきではなかった
俺の省エネ主義が、致命的に脅かされている
もう――
まるで夢の中にいるような心地の奉太郎は、自分の中に芽生えている「ある想い」が急速に大きくなっていく事を感じる。そして行列は狂い咲きの桜の下を通り、何とも幻想的な光景が広がる。
ああ――!
千反田が見えない
千反田が、みえない
気になる、気になる!
もし今、紅を差し、目を伏せている千反田を正面から見られたら、それはどんなにか……
里志の呼びかけで中断されなくとも、もう奉太郎は気付いてしまったようです――自分の中の確かな気持ちに。
長久橋の工事を巡る謎を解いた後、並んで帰路につく奉太郎とえる。夕日の中、えるが切り出した話は、千反田家を取り巻く状況であり、自分の将来――たとえ大学に進学して外の世界に出たとしても、自分の終着点はこの地元、千反田の家である事。自分は会社経営には向いていないから、理系を選択した(恐らくは農業科学を学ぶ道を選んだ)事。
そして、自分の辿るべき道が可能性に満ちているとも――心の底から素晴らしいとは――思っていない事。しかし――
でも、折木さんに紹介したかったんです
そんな「自分」を奉太郎に知ってもらいたかったと、えるは語る。*1そんなえるに対して奉太郎は――
ところで、お前が諦めた経営的戦略眼についてだが、俺が修めるというのはどうだろう
一瞬、そんなとんでもない告白をする自分を幻視する。喉まで出かかったその言葉をどうにかして押し込め、そして「あの時(摩耶花の一件の時)の里志も、こんな気持ちだったんだろうか」と、思いを馳せる奉太郎。
「千反田える」を好きになり共にありたいと願う事は、彼女の背負った様々な重荷を共有すると言う事。言葉通り、人生を賭けた恋愛になるに違いない。奉太郎は、自分のえる対する想いを自覚すると同時に、彼女へ想いを告白する事の意味についても正しく理解した、という事になりましょうか。
今は飲み込んでしまったその言葉を、いつか本当に口に出来る日が来るのか。狂い咲きの桜吹雪の中、再び歩き出す奉太郎とえるの姿がなにやら暗示的です。二人の物語はまだまだ続くようですが、本アニメ「氷菓」はここで持って幕と相成りました。
当初は「ここまで地味な話で受けるのかな?」と心配もしましたが、そこは京都アニメーションと優秀な脚本陣の事、原作の素材を活かしつつ、視聴者に訴えかける映像と演出を持った見事な作品に仕上げてくれました。原作は単行本一冊程度しかストックがないようですが、またいつの日か、古典部の面々に再会できる日が来る事を祈らずにはいられません。
氷菓 (3) オリジナルアニメBD付き限定版 (カドカワコミックス・エース)
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*1:しかし、ここまで思わせぶりな事を語っておいてえるの方にそんな気が無い、というオチだったら笑えませんなw