たこわさ

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北央との直接対決の行方は!?「ちはやふる 29」感想

ちはやふる(29) (BE LOVE KC)

ちはやふる(29) (BE LOVE KC)

28巻が遅れて発売されていた影響なのか、なんとそこからたった2ヶ月で発売してしまったこの29巻。続きが早く読めて嬉しい反面、作者さん働き過ぎなんじゃ? と心配にもなってしまいますが、*1それはともかくとして――。

(以下ネタバレ)

三年目の「瑞沢 対 北央」

4校対決による東京予選決勝リーグもいよいよ大詰め。1勝1敗という渋い戦績の瑞沢の最後の相手は、宿敵・北央。しかも北央は唯一2勝をあげて全国出場にリーチをかけている状態。
その北央を率いるのはヒョロくん。自らが主役の強選手になるのではなくチーム全体の実力を底上げししっかりと引っ張っていく、本当の意味での「強豪」に北央かるた部を鍛え上げたヒョロくんに対し……瑞沢には「背骨」である太一がおらず、千早という「一強」がむしろ枷になってしまう、まだまだチームとしてきちんと機能していないという体たらく。
この圧倒的不利な状況で瑞沢がどう戦っていくのかが今回の肝。

今回の主役は間違いなくヒョロくん!

千早をはじめとして化け物揃いの本作にあって、ヒョロくんは最初期から登場する「凡人」の代表だと思います。もちろん、彼自身に才能がないのではなく周囲が異常過ぎるのですが……そこが彼と太一の共通点で、だからこそ実は太一に一番戻ってきてほしかったのは――全国大会で主将として雌雄を決したかったのはヒョロくんだったと思います。でも、その太一の姿は大会にはなく、代わりに立ちはだかるのは小さなころから最も近くで観て来た「怪物」千早。

帰ってこいよ 真島
寂しいよ
”才能”のそばは 苦しいよ

「一番つき合いの長いかるた仲間」であるはずの千早との間に横たわる、あまりにも絶望的な実力差を前にヒョロくんの心に去来するそんな叫び。そう、太一こそはヒョロくんにとって真に「同志」と呼べる存在でした。
ヒョロくんと太一のかるた人生ってよく似てるんですよね。二人とも千早や新というあまりにも大きすぎる才能を目の当たりにし、それを直視しながらかるたを続ける事を強いられてきた。太一もヒョロくんも一般的な尺度で考えれば十分に優秀な人間なんだけれども、それでも全く届かない「才能」という名の死刑宣告。でも、二人とも諦めなかった。
そして二人とも、自分自身が強くなることを諦めないし負ければ悔しいけれども、同じくらいにチームがどうしたら勝てるのか、部員達がどうしたら強くなれるのかに心を砕いてきた、チームの「背骨」とも呼べる存在。ヒョロくんが鍛え上げたチームの雰囲気や彼の主将としての試合運びに対し、千早が太一の姿を重ねたのは至極当然の事だったんですね。

太一と共に歩んだヒョロくん、太一の背中を追い始めた千早

そんなヒョロくんの姿が更なる刺激になったのか、北央相手に苦戦する中、チームを盛り上げようと静かに、しかししっかりとした言葉を部員達に投げかけ続けるようになった千早に対し、今度はヒョロくんが太一の姿を垣間見ます。
この辺りは、千早が太一の事を全然見ていないようで実はきちんと見ていた事の証左なのですが*2、それってやっぱり「かるた仲間としての、部長としての太一」の姿であって一人の男の子としては全く見ていなかった事の証左にもなってしまうんですよね。千早もその事はもう自覚していて、だからこそ「太一がピンチの時には戻って来てくれるかも」なんて甘い自分勝手な考えは抱かずに、もう瑞沢かるた部に太一が部長として戻ってくることはないんだ、という割り切りをしているのでしょうね。
……あれ、でもそれってよく考え得たら薄情すぎる気が(笑)。ヒョロくんはいまだに太一が戻ってくることを信じているのにね。きっとのこの辺りが、私が千早を好きになれない理由なんだろうな、と。だからヒョロくんも思わず、

千早はずっと
俺なんか眼中になかったろ
お前は自分より強いやつしか見てねえんだ
冷てえよ

と言ってしまったんでしょう。

でも試合の後、ヒョロくんはそれを否定するような言葉を千早に投げかけもしました。

おまえは ずっと……
強くて孤独なやつのそばにいてやろうとしてたんだもんな
冷たくない
まちがってもねえよ

……もうね、この言葉に千早がどれだけ救われた事か! そりゃあついついハグしちゃうよ! というかもう千早はヒョロくんとくっつくといいよ!(それはない
この一連の言葉って、ヒョロくんの口を借りて太一が千早に語っている、と受け取ってもいいのかもしれませんね。ただ、そうなるともうこの作品の中で太一が千早に何かを与えることはなくなってしまうようにも思えますが……。

北央強し!

場面は試合に戻って……結局、ヒョロくんは千早には勝てませんでした。そして千早もまるで太一が乗り移ったかのような主将ぶりを発揮してチームを勝利に――導くことはできませんでした。善戦しましたが、ヒョロくんが鍛え上げた今年の北央は本当の意味での「強豪」チーム。個々人の実力では決して負けていなかったはずですが……それだけヒョロくんが優秀だった、という事か。
これで瑞沢の全国行は絶望かと思われましたが……北央以外の3校の戦績が並んだ結果、勝ち数やら何やらの順番でギリギリ瑞沢が2校目の全国行切符を獲得。まあ、ここで瑞沢かるた部の物語が終わったらこの漫画なんなんだよw となりますから当たり前と言えば当たり前なんですが。
最後の最後で机くんのもぎ取っていた一勝が瑞沢の全国行の決定打になった、という展開もまた、この漫画らしくて良いですね。

その頃太一は

前巻殆ど出番の無かった太一。今回も顔出し程度ながらようやくその現状が明かされました。以前示唆された通り、彼はかるたを止めておらず、なんと周防名人の練習相手として日々を送っていました。何やらすっかり打ち解けて、しかも千早からもかるた部からも離れた今になって、ようやく太一は「かるたが楽しい」と感じるようになっていました。
一見すると「かるたが好きじゃなかった太一がようやくかるたを好きになれて良かったね」なんですけれども、実際には、彼とっていちばん大切だった千早や仲間達との縁を切って引き換えにようやく得た「楽しさ」なので、彼自身が新たに何かを「得た」訳じゃないんですよね……。
構図的には、何もかも犠牲にして千早と瑞沢かるた部に尽くしていたあの頃と変わっていない訳で。だから、今はまだ「太一復活」の時ではないのでしょう。彼が本当の意味で「かるたの大好きな青年、真島太一」になれる日は、まだ先の様子。

母親達の想い

千早達の試合を見守るママさんズのシーンも実に良かった!
特に太一ママは……やっぱり、きちんと息子の事を理解しようとしている人だったんですね。「成績落ちたらかるた部辞めろ」も太一を信頼した上での言葉で、息子ならばきっと成績が落ちるような事があってもかるた部を辞めないだろう、自分を納得させるだけの事をしてくれるだろう、という想いがあった訳で。
周防名人との「密会」もしっかりとばれているようですし。親の心子知らず、ですね。でもまあ、息子がいなくなって初めて瑞沢かるた部の「良さ」を知ったという、息子は信じていたけれども彼の周囲のものを信じていなかったその態度が、結果的に太一を悪い意味で自立した人間にしたのかな、とも思われ。

さてさて、千早や太一が人生の岐路とも呼べる場所に立っているその頃、女王・詩暢は――。

はたらく女王さま!

今後の人生に不安を覚えた(少々語弊有)詩暢ちゃんがバイトを始めるも速攻でクビ……という、かるた以外では無能な事を思い知らされてしまった詩暢ちゃんの姿に笑いを堪――もとい同情を禁じ得ないのですが、その事で落ち込む彼女に、彼女の祖母が驚愕発言!

世界で一人目の
かるたのプロになりなさい

一体どうなるんだ……。

*1:むしろ編集者がチェックすべきケアレスミスが見逃されてて、そっちの方が死にそうになっているのじゃないかとも邪推。ヒョロくんが千早の事を「綾瀬」じゃなくて「千早」と呼んでいるシーンはかなり違和感。もっとも、後述のようにヒョロくんが太一の言葉を代弁している、と捉えるとそれはそれで意味深。

*2:例えば太一がタオルを欲した時に真っ先に差し出したのが千早だったあのシーンと同一のそれ。