たこわさ

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アルスラーン戦記 第二十章「騎士の素顔」感想

今回の満足度:4点(5点満点中)
(以下ネタバレ)

あらすじ

アルスラーンの布告したルシタニア追悼令と奴隷制度廃止令を受け、ペシャワールには予想以上に多くの将兵・諸侯が集まりつつあった。しかし、その全てがアルスラーンに忠誠を誓っている訳ではなく、今のうちに存在感を示し後の権益を高めようという者をはじめ、様々な思惑を持っていた。一枚岩ではないその状況は早くも軋轢を生み、アルスラーンの側近であるジャスワントと、異国人である彼を侮蔑する新参のザラーヴァントとの間でも諍いが起きてしまう。
元々地位を持っている者達が、アルスラーン自ら地位に関わらず登用した者達へ不信感と嫉妬を向ける――この状況に頭を悩ますアルスラーンナルサスに策を尋ねるが、意外にもナルサスは「自分を今の地位から外す」事を提案する。サトライプ(中書令)という宰相にも近い立場にあるナルサスだが、本来この役職は人望と地位を兼ね備えた年長者が就くべきだとレイ城主ルーシャンを推挙し、自らは軍事に注力する、と。
更にナルサスアルスラーンの近臣とルーシャンを集め、今後の指針を示すようアルスラーンに促す。まずはルーシャンに、先王の嫡子ヒルメスがルシタニアの客将となっている事、そして彼が正当な王位を主張している事を明かし、自らが王位を奪還する為にパルスの民を傷付けたヒルメスの悪行をダリューンと共に批判、ルーシャンも同じ気持ちである事を確認する。その上でアルスラーンヒルメスとの対決の覚悟を示すよう促すが、自らの出自に知ったアルスラーンはその場で強い言葉を発することが出来なかった。

その頃、ルシタニアの騎士見習いエトワールは部下を率いペシャワールの偵察に来ていた。大した武勲にもならない任務に不平を漏らす部下達の気持ちを汲んだうえで、エトワールは自ら単身でペシャワールに潜入するという。部下のもとを離れ変装を始めるエトワール。鎧兜を外したエトワールの姿は、美しい金髪を持った娘のそれで――。

感想

エトワールが必要以上に気を張っていたのは、女だてらに男社会であるルシタニア軍の中で身を立てるためだった訳ですね。一瞬、エラムみたいに女装するのかと思いましたわ(笑)。アルスラーンとの偶然の邂逅とささやかな交流は、最近のラノベだと安易な恋愛感情が芽生える展開ですが、本作ではそれがなくて少し安心。なので最後の方、アルスラーンの紳士的過ぎる行動にエトワールがちょっとだけ頬を染めた姿が逆に印象に残りました。アルスラーンにその気はなかったというのが、また。まあ、アルスラーンの場合少しは色ボケしてくれた方がむしろ安心できるのですが。今はまだいいけど数年後もこれだと衆道疑惑が湧くぞ(ぉ
今までは空回り気味だったエトワールの理想や誇り高さが、今回はアルスラーンの迷いを払う結果になったという逆転構造が中々興味深かったですね。彼女は既に三度、アルスラーンの世界を広げる役割を担っている訳で。エトワールの願い通り、二人が戦場で出会うような場面はあまり見たくありませんが、不思議な縁が再び二人を出会わせる事は必定のように思えてきます。作劇上の都合以上に。

今回はアルスラーンとエトワールの邂逅ばかりが印象に残りましたが、その次位に初めてヒルメスの非道がはっきりと非難された事が印象に残りました。サームがそんな素振りを見せていなかったので、パルスの文化では民の命よりも王統の正当性が重視されるのかな、と思っていましたが、そんな事はなくて少し安心。前回も書いた気がしますが、民草への非道を許さぬという正義、奴隷達を解放しパルスに真の繁栄と自由をもたらそうという理想を掲げているアルスラーンと、自らの血統の正当性だけを頼りに具体性のない「パルスの繁栄」を掲げるヒルメスとでは、最早勝負にならないのではないかな、と。