たこわさ

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「海街diary」感想

原作既読であり、また私の地元が主な舞台であり、更には是枝監督作品でもあるという、三重の意味で楽しみにしていた作品ですが、概ね期待通りの出来でした。
父に捨てられ母とも別れ、鎌倉の古民家で静かに暮らしていた三姉妹が、父の死をきっかけに腹違いの妹を引き取り四人で暮らし始めゆっくりと家族になっていく――タイトルに「diary」とあるように劇的な展開が続くのではなく、静かで平坦な生活の中で少しずつ変わっていく日常やそれぞれの内面、人間関係を魅力的に描いた原作を、是枝監督は見事に一本の映画として調理してくれました。
パンフレットによると、是枝監督は当初「原作のシーンを並べ替えるだけ」、つまりは原作に極力忠実に物語を組み立てるつもりだったそうですが、約二時間で終わる一本の映画として作る上でどうしても削ったり足したりする部分が出てきて今の形になったとの事。その為、原作の中でもインパクトのあり過ぎる――1人の登場人物にフォーカスし過ぎる――いくつかのエピソードや登場人物が削られ、あるいは形を変えて登場しているのですが、これがまた絶妙のさじ加減で、原作ファンも納得の出来だったのではないでしょうか?
冒頭に書いた通り、主な舞台は私の地元である鎌倉であるため、見慣れた風景を映画というフィルターを通して観るという楽しみを十分に満喫出来ました。ついでに、原作では「隣町」という設定のとある場所を、きちんと「実際の隣町」で撮影しているという原作に忠実過ぎる拘りに気付けるなど、地元民ならではの「気付き」もあったり……。
四姉妹の心と関係の変化と同期するように移り行く季節の表現も実に美しい。春には桜、夏には花火、秋には紅葉、そしてじっと春を待つ静かな冬。
四姉妹が住んでいるのは「極楽寺」という江ノ電の駅名にもなっている場所なのですが、そこは海からほど近いながらも急な坂を上った先の緑に囲まれた土地であり、一見すると緑豊かな山中のようにも感じられる、なんとも贅沢なロケーションだったりします。必然、劇中では四季折々の海と山の風景が一連のものとして流れる事になり。


決して、ハッとする展開や胃が痛くなるような重い展開などのように、ドラスティクだったりドラマティックだったりするシーンが続くような作品ではなく、非常に淡々とした、それでいて四季と同じように少しずつ確かに変化していく人々の様子を描いた、実に静かな映画です。アクション超大作などに食傷気味の方には、箸休めとしてお勧めしたい所。親子連れには少々厳しいかもしれませんが。

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃