たこわさ

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「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」全体感想

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諸事情で感想書くのを中断していましたが、少し落ち着いたので作品全体に対する感想をば。
全体の満足度:5点(5点満点中)
(以下ネタバレ含む)

本作を語る上で、まず外せないのが脚本・シリーズ構成を手掛けた作家・舞城王太郎氏について、だろう。

舞城氏と言えば「煙か土か食い物」でデビューした、スリップストリーム系の小説家だ。

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

個性的な文体、人を食った展開、外連味溢れる世界観などが魅力なのだが……氏の作品の多くに共通して多く描かれているテーマに、「異端ゆえの孤独」や「愛」がある(と私は解釈している)。

本作「ID:INVADED」も、外連味溢れる展開の連続の中に、鳴瓢や本堂町、富久田の抱える異端ゆえの苦しみや、鳴瓢の妻子への消えぬ思いが織り込まれ、物語に深みを増していたように見えた。

鳴瓢は妻子を愛する善良な警官であったが、被害者を救い犯人を裁く為ならば超法規的な、残虐な自殺教唆も辞さない。
本堂町は基本的に正義側の人間であるが、「悪人」を自ら殺害あるいは死へと追い込むことに悦楽を感じている*1
富久田については言うまでもない。彼は外道で凶悪な犯罪者ではあるが、その根底にあるのは彼自身の責任では決してない「異常」あるいは「異能」を遠因とした狂気だった。

彼らは彼ら自身が抱える異端ゆえに、連続殺人鬼と成り果てた。まるで世界に抗うかのように。
それでも彼らが徹頭徹尾人間であり続け、決して世界の側を壊そうとしなかったのは、「愛」を知っていたからだろう。
他人を愛するがゆえに、愛を求めるがゆえに、まだ知らぬ愛に思いを馳せる故に。彼らは世界の中の異端であり続けた。
それとは対照的なのが「ジョンウォーカー」だろう。

「ジョンウォーカー」は自らの異端を「正義」と勘違いし、世界の方を塗り替えようとした。
ある意味究極のエゴイズムだろう。
現実をよりよく導くためにイドを使うのではなく、イドで都合よく世界を塗り替える。
他者への「愛」無き彼の行為がどういう結果になったのかは……作中の通りだ。

本作はミステリ風の体を装いつつも、実際には視聴者側に推理力を要求しない。
推理は「探偵」達が勝手に進めていく。これも舞城氏の作品に時折みられる傾向だ。
主人公がいきなり謎を解いてしまったり、はたまた名探偵が早々と退場してしまったり。
ミステリを期待していた方は肩透かしを食らうかもしれないが、どうか謎ときの向こう側に描かれた人間模様を楽しんでいただきたいと思う。

本作の登場人物たちは、大なり小なりどこか歪んでいる。
けれどもその歪みの向こう側に等身大の人間そのものがいて、日々苦悩しながらも最善を尽くそうとあがいている。
本作をもし一言で表すのならば「人間賛歌」という言葉がふさわしいように思えた。

*1:或いは頭の穴こそが元凶だったのかもしれないが