- 作者: 平坂読,ブリキ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2014/06/05
- メディア: 文庫
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(以下、ネタバレ感想)
小鷹や朱音の「おせっかい」により、歪な形ではあるものの姉・日向と和解し、元々の容姿の良さや事務能力の高さ、面倒見の良さ等から次第に校内でも一目置かれる有名人になっていく夜空と、小鷹のアドバイスも空しくますます悪目立ちしていく肉との対比がメインで描かれていった本作、どうまとめるのかと思いましたが……実に原点を忘れない「残念」な隣人部らしい着地点に上手くまとめたな、と。
クリスマス会の最中、やっかみの感情をぶつけてきた女子グループに、ついカッとなって罵詈雑言を浴びせてしまい、周囲の顰蹙を買ってしまった肉。遠巻きに向けられる非難の声の中にあった「――あの人、友達いないんじゃないの?」という何気ない、しかし肉にとってはどんな言葉よりも耐え難い言葉。それが図星を突いていると悟った聴衆から、無遠慮に浴びせかけられる嘲笑の数々。そんな肉の窮地を救ったのは、他ならぬ夜空でした。
完全アウェイの空気の中で、それでも肉の味方をすると決めた夜空。状況を鑑みれば悪いのは肉。でも、「悪」だからといって無責任に嘲笑し辱め、石を投げつけるような行為を、夜空は許せない。かつて、事実無根な「不良」のレッテルを貼られ、クラスメイトからイジメを受けていた小鷹を救ったように。
それは場の空気を考えれば、決して「正しい」事ではない。せっかく上がった学内での夜空の評判も、柏崎星奈という「大衆の敵」を庇い、むしろ晒し者に石を投げつけるかのような周囲の行為を糾弾する事で、無かった事に、もしくは以前よりも悪いイメージなってしまう。それでも、そんな虚飾の評判よりも、たった一人の「友達」の事を優先して、共に石を投げつけられる場所に立つ。
決してマジョリティにはなれない。世間から見れば「残念な人」。それでも、きっとその心は高潔で。――三日月夜空、見事な復活であります。
そして、そんな夜空の高潔さに心打たれた男が一人――我らが主人公、小鷹でございます。
理科の手を借りてイメチェンをはかり、「普通の生徒」になじもうとしてそれなりに実績も重ねていた小鷹もまた、肉とそれを庇う夜空の為に、再び「残念」な自分に戻る決意を固めます。正直、夜空の演説と違ってみっともない事この上ない方法なのですが、「普通の青年」である彼にとって、あそこまで身を切って誰かの為に犠牲になるという行為そのものがヒーロー的なそれな訳で。
きっと学校中の殆どの人にとって、小鷹は以前よりもアンタッチャブルな問題児として認識されてしまった事でしょうから、彼が切望していたような絵に書いたような学生生活を送る事はもう出来ないでしょう。それでも、彼にとって本当に大切な物は守りぬけた。きっとそれで十分なのでしょう。
しかーし、そこにきて、まさか最後の最後で幸村が伝家の宝刀を抜くとはw
あとがきで「次は丸ごとエピローグ」みたいな事を書いていたのでもしや次で最終巻? それとも今回のエピソードの後始末という意味? などまだまだもやもやさせてくれます。
本シリーズの面白味は、奇抜なキャラクター設定そのものというよりも、むしろそういったキャラクター達が交わる事で生じる何とも言えない不協和音にあると思います。願わくば、最後までその本分を貫いてほしいと思います。