たこわさ

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「鋼の錬金術師」最終回感想

少年ガンガン 2010年 07月号

少年ガンガン 2010年 07月号

と言う事で、本日発売の月刊少年ガンガン7月号にて、「鋼の錬金術師」が最終回を迎えました。
(以下ネタバレ感想注意)

満ち足りたものと満ち足りなかったもの

ああ もう十分だ
なんも要らねぇや
がっはっは…じゃあな
魂の……友よ

飽くなき強欲を定められ生まれた筈のグリードが、最後の最後に得た「満ち足りた」という感覚。
彼の生みの親である「フラスコの中の小人」は、決して「満足感」を得られませんでした。しかし、その「息子」であるグリード、更にはラースことブラッドレイは「満足感」を得て逝きました。その両者の違いこそが、勝負を決したと言っても過言ではないでしょう。

グリードとブラッドレイが「満足」出来たのは、彼らが「成長」を果たしたからであり、逆に「フラスコの中の小人」が「満足」を得られなかったのは、「成長」する事を怠ったからなのでしょう。
エド達に敗れ去った「フラスコの中の小人」に、「真理」は語ります。

お前がおのれを信じぬからだ
(中略)
他人の力を利用し「神とやら」にしがみついていただけでおまえ自身が成長しておらん

もっとも強大な力を持ったものが、もっとも自分の力を信じていなかったという皮肉。他人の力=他人の魂を搾取した賢者の石任せのその力が、「自分達の足で歩く」事を選んだエド達に敗北したのは、必然だったのかもしれません。

エドの涙

戦いはエド達の勝利に終わりました。ですが、戻ってきていない者がいました――アルフォンスです。
エドの勝利を信じ、自らの魂と引き換えに彼の腕を「取り戻した」アル。彼を取り戻さなければ、本当の勝利とはいえません。

しかし、賢者の石は使わないと固く約束しています。そんなエドホーエンハイムは「自分の命を使え」と語ります。それに対してエドは――。

バカ言ってんじゃねぇよクソ親父!
二度とそんな事言うな!!
はったおすぞ!!

強い拒絶と、「親父」という言葉、そして溢れる涙。
――そう、この作品においてエドが涙を流したのは、実は過去の回想シーンやギャグシーンのみで、「今現在のエド」が涙を流したシーンは一つもありませんでした。泣きたくても泣けないアルの為に、エドが直接的に涙を流す事は、今までありませんでした*1。そのエドが涙を流しながら、ホーエンハイムの事を「親父」と呼んだ。

はは
やっと親父と呼んでもらえた

ホーエンハイムの、困ったような、でも心底嬉しそうな笑顔。

この、二人が「親子」に戻る瞬間以外に、エドが涙を流すに相応しい場面はなかったのでしょう*2

真理に打ち勝つ

アルを救い出す全ての方法は閉ざされたのか? 苦悩するエドは、周囲の――今まで支えてくれた人々を見渡し、そして気付きます。

誰もオレ達兄弟に「あきらめろ」って言わなかったじゃないか!!!

意を決したエドは、一同が見守る中「最後の練成」と称して人体練成を行い「真理の扉」へ自ら赴きます。「弟を連れ戻す代価は?」と問う「真理」に、エドは「代価ならここにあるだろ」と真理の扉を見上げます。
「真理の扉」を失うと言う事は「錬金術が使えなくなりただの人間に成り下がる事だ」と語る「真理」に、しかしエドは堂々と言い放ちます「元々ただの人間だ」「錬金術が無くてもみんながいるさ!」と。

――そう、それこそが唯一の正解。「真理」に打ち勝つと言う事。過ぎたる力に踊らされるのではなく、ただのちっぽけな人間である事を受け入れる事。
エドは正解に辿り着き、アルを無事日の光の下に取り戻しました。本当に長かった二人の旅の終りが、漸く見えてきました。

一つの旅を終え、また旅立つ人々

エドとアルが無事、旅を終えようとする一方で、周囲の人々にも旅の終わり、そして新たな始まりがやってきました。
目が見えなくなったマスタング大佐の元を、訪れたマルコー。彼の望みは、イシュヴァールの解放、そしてその為に自らの身を捧げると言う事。それをかなえてくれるのならば、賢者の石を譲ろう、と。

その言葉を聴いたマスタング大佐の心に去来するのは、かつてのキンブリーの言葉。

死から目をそむけるな
前を見ろ
そして忘れるな

思えば、いつの日か自ら裁かれることを望んでいたマスタング大佐。しかし今、「生」でもってイシュヴァールの民に償おうと決心するマルコーを前に、大佐の行く道も「生きる」方へと大きく転換したのではないかと思います。

一方、死んだと思われていた傷の男もアームストロング少将に命を拾われ、そして「同胞」であるマイルズにも諭され、「生きて」故郷に報いる道を選びました。そしてシンの皇帝への道を切り開いたリンも、メイに「チャン家も他の家の奴らもまとめて」守ってやる、と宣言し、故国へと帰っていきました。
賢者の石を巡る各人の戦いは終わりましたが、それぞれの旅――人生はまだまだこれからも続いていきます。

そして、そんな旅人達の陰でひっそりと、本当の意味で旅を終えた男が独り。愛する妻の墓の前で息絶えたホーエンハイム。それを発見した友ピナコの言葉が、彼の長い長い人生がどんなものだったかを物語っていると思います。

バカたれが
なんて幸せそうな顔して死んでんだい

エドとアルの旅の終わり、そして――

自分達の足で故郷へと帰ったエドとアル。それを出迎えるウィンリ。彼らの旅は漸く終わり、穏やかな日々が流れていきます。
しかし、兄弟の胸に去来する、ある共通の思惑が。
エドは西から、アルは東――シンのメイの元で錬丹術を学ぶのを皮切りに、各国の知識を勉強し、いまだ錬金術で苦しんでいるであろう人たちを救いたい。兄弟は再び旅に出る事を決意します。

アルは合成獣から元の体に戻る方法を探すザンパノとジェルソを道連れに、そしてエドは……。

等価交換だ
俺の人生半分やるから
おまえの人生半分くれ!

ウィンリにプロポーズしてました!!

しかし、エド会心のプロポーズもウィンリの前には形無しです。盛大にがっくりした後のウィンリのこの言葉の前には。

ほんとバカね
半分どころか全部あげるわよ

最後の最後に「等価交換の法則」を見事に打ち破ってくれたウィンリは、やっぱりこの作品のヒロインだったんだな、と。オーラスでこんなのろけを見せ付けられるとは!w

最後に

いや、本当に「良い最終回」のお手本のような最終回でした。もちろん、きれいにまとめるためにあえて語られなかった「その後」がたくさんあるわけですが、それは言わぬが花だったり、もしくは単行本でフォローされるでしょうからもう文句の付け所がありません!

色々と語りたい事はつきませんが、読了後の興奮は十分に書けたと思いますので、まずはここで筆を置きたいと思います。

*1:その代わりにウィンリが泣いた。

*2:エドホーエンハイムの事をはっきり「父」と呼んだのもたぶんコレが最初であるような気がする。