やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11 (ガガガ文庫)
- 作者: 渡航,ぽんかん8
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/06/24
- メディア: 文庫
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(以下ネタバレ)
基本的な話の流れとしては、
- バレンタインイベントに向けたドタバタとした日常
- イベント当日の和やかな雰囲気から一転、陽乃の一言で奉仕部三人は暗澹たる雰囲気に
- ガハマさん、ある決意を固めて八幡と雪乃をサプライズデートに誘う
といった所。
バレンタインイベント部分が全体の2/3程度なので「あれアニメかなり尺が余らない?」と一抹の不安が。
相変わらずアニメでは大胆カットされていますが、バレンタインイベントはもう少し描写が丁寧でした。何故戸塚達がいたのかとか、川崎妹の出番だとか、戸部っちのいい奴成分だとか。そしてやっぱりアニメでは八幡の雪乃に対するトキメキ度がかなり誇張されている印象。解せん。
まあ、一番解せんのは、いろはが八幡に咥えさせたスプーンは、実は直前にいろはが使っていたもの、という設定をカットした事だけれども。
ガハマさんの決意、八幡の決意
11巻はガハマさんこと結衣が主役、と言っても過言でないかもしれません。
陽乃に指摘された奉仕部の「本物ではない」今の状況。互いに大切に想い合い、緩慢だけれども穏やかで楽しい日常――けれどもそれは多分なれ合い、自分達が思っていること、思い続けている事から目をそらし続ける、八幡風に言えば「欺瞞に満ちた日々」。
もし、お互いの思ってることわかっちゃったら、このままっていうのもできないと思う……。
結衣が突きつける、決定的な一言。もちろん、「思ってること」の正体はこの作品らしく婉曲的な表現に留まっているし、八幡視点では結衣や雪乃のそれを正しく推し量る事は出来ない。けれども「このままではいられない」という認識だけは一致している。
八幡は相変わらず自分の感情の理解に乏しく、彼の想いはそのモノローグから推測するしかない。雪乃の病巣はもっと深く、八幡と結衣にただならぬ好意を抱いている事くらいしか分からない。でも、おそらく結衣の想いだけは、既に読者に明示されているように思います。彼女はやっぱり八幡の事が恋愛的な意味で好きで、雪乃の事が親友的な意味で好きで。だから、三人の関係がどう転んでもきっと誰かが、誰もが傷付くことになる。
そんな彼女の決意、一つの答え。例え欺瞞であっても、例え自分の八幡への恋心を「無かったもの」としてしまっても、「今」を続けたい、という悲愴な願い。それをいつの日かの勝負「(依頼の達成数で)勝った人の言う事を何でも聞く」という「言い訳」と共に掲げた、彼女の「正しさ」。自分を「ずるい」「卑怯」「欲張りだから全部欲しい」と定義した、ある意味「悪役」を演じた上での、彼女の提案。きっとそれは、いつか彼女が悔やんだ「全部ヒッキーに頼った」事に対する、彼女なりの答え、償いで。
……このくだりは、読んでいて心にズーンと来ました。結衣にとって八幡や雪乃への想いはどれだけのものなのか、ここまで付き合った読者には十分に伝わっている事と思います。八幡に少しでも近づきたいという一途な想いも、雪乃の傍にいて支えたいという切なる想いも。でもこの時、結衣はそれらを全部捨てた上で八幡達が心揺らいでしまうような「言い訳」を準備して、八幡には信念を、雪乃にはその自由意志を諦めさせようとしてるんですよね……。だから「ずるい」「卑怯」。それでももし、八幡達が望むのならば、自分は悪役になってでも、例え欺瞞であって「今」を続けるという選択肢を与えたかった。
でもきっと、結衣は分かっていたのでしょう、八幡が決して自分の信念を曲げない事を。由比ヶ浜結衣という彼にとって大切な女の子が「ずるい」人間であるのに耐えられない事を。雪ノ下雪乃という彼にとって大切な女の子が、自分の意志で未来を決めないなんて間違いだと思ってしまう事を。
……ヒッキーならそう言うと思った
この時の結衣の笑顔、そして涙にどれだけの想いが込められていた事か……わたりんの鬼畜!(?)
結局、結衣は八幡を止める事は出来ませんでした。でも、八幡の決断が彼の意地だとか信念だとかだけではなく、自分と雪乃を大切に想ってくれている事も含めてのものだと知っているから、優しい微笑みと一筋の涙で返すしかなかったのでしょう。
雪ノ下雪乃は……
雪乃の抱える問題、その全容はいまだに掴めませんが、今回、彼女の持つ病巣の一つが明確に示されました。急きょ母親の命で「同居」する事になった陽乃。その言葉で「どうすればいいのかわからない」状態に陥った雪乃を、結衣と八幡は由比ヶ浜家に一時匿います。結局、そのまま結衣の家に泊まるよう説得されましたが、それでも陽乃に連絡だけはしなければならない。その時の電話口の言葉に、結衣は雪乃の抱える問題の、その最たる一つを目撃してしまいました。
それは、陽乃に一報入れるようにアドバイスした八幡の言葉を、そのまま復唱しただけのような、決して自分の言葉ではない、誰かの――今回は八幡の真似事。葉山は言った「もう陽乃さんの影は追っていない。でもそれだけだ」、陽乃は言った「あれは信頼なんかじゃない、もっと酷い何か」と。
雪ノ下雪乃は決して空っぽの人間などではないと思います、ただ、彼女の生き方そのものや重要な場面での決断、そして「どうすればいいのかわからない」状態になった時、彼女は自分自身ではなく依存、もしくは目標としている誰かの皮を被らずにはいられない。特に、八幡は彼女にとって初めて得た「同志」でしたから、その依存度は半端なく、ここ数巻の彼女の行動、そして今回のコピー&ペーストのような発言からもそれは窺い知れます。
ただ、今巻の最後の描写を見る限り、結衣と八幡の決意を前に、彼女はようやく自分の願望を自分の言葉で言おうとする意志を――かなり回りくどい言い方だけれども、恐らくその位遠回りな思考パターンで――得たのではないかな、と解釈しました。その答え合わせは次巻以降になりそうですが。
12巻も楽しみかつ胃が痛い
結局、八幡達は緩慢で欺瞞でそれでも楽しくて優しい「正しい」世界ではなく、「まちがっている」厳しい世界を選択しました。八幡がその維持に奔走した「葉山グループ」とは全く逆の方向に進む事になりました。八幡と結衣の願いは同じ形ではなくぴたりと一致する事はありません――ですが、八幡はそれでもどこかで一つになれる部分がある、つながれる部分がある、と願いにも似た想いを抱きました。
彼と彼女らの願い、その全てが重なる可能性はもうありません。ですが、きっとどこかで重なる部分はある、三人が何か一つ、一つだけでも得られる事を願いつつ、12巻を待ちたいと思います。
以下、読んでいた時の感想未満の心の叫びの羅列
- いろはすあざとかわいい!! もういろはすエンドでもいいよ!w
- ガハマさんが健気すぎて泣ける……。
- 考えたらゆきのんは誰かの為に動いたことないよな……。
- どこにいったら静ちゃんのような素敵な女性と出会えますか?
- 玉縄のライバル宣言に爆笑。でも、折本さんは全く意識してなくて哀れ過ぎる。意識は高くても恋愛レベルは高くなかったか。
- ヒッキー、由比ヶ浜ママに婿候補補足されたようだな……。
- アニメで由比ヶ浜マ(原文ママ)カットしたら許さない。むしろじろじろ見られて赤面するヒッキーを見たいまである。
- 後半はともかくとして、序盤のヒッキーはやっぱりガハマさんに対してグイグイ攻めてるんだが……何故アニメではそこら辺のニュアンスが全く感じられない描き方をしているのか。解せん。
- クッキー渡す時の「ただのお礼」という言葉に全俺が泣いた。でも、ヒッキーにはその悲愴な想いは十分伝わってるから!
- やっぱりヒッキーとガハマさんにゆきのんが救われる話になるのかな。
- ガハマさん派としては、やっぱり彼女とヒッキーがくっついてほしい。ゆきのんはヒッキーへの依存から卒業して改めて二人と向き合ってほしいな……。
結論:ガハマさんは可愛い
(了)
*1:俺ガイルとならぶ本作の公式略称は「はまち」。