たこわさ

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絶園のテンペスト 第二十一幕「ファム・ファタール(運命の女)」感想

原作知識は連載を流し読みしてる程度でうろ覚え。
(以下ネタバレ)
過去の世界で葉風が愛花から自身が絶園の魔法使いであるという衝撃の事実を明かされた一方、現在世界では「はじまりの樹」の「コアブロック」と思しき巨大物体が出現していた……。
愛花の口から矢継ぎ早に真実の数々が語られ、流石の葉風さんも理解が追いついていない様子――いや、本来の彼女ならば状況をあっさり飲み込めたんでしょうが、流石に愛花が絶園の魔法使いだとは思ってもみなかったのでしょう、終始愛花のペースで事態が進行してしまいます。
愛花曰く、はじまりの樹と絶園の樹はセットである、はじまりの樹と絶園の樹が共に復活した状況で事態をただ静観しているとやがてはじまりの樹によって文明がリセットされてしまう、絶園の魔法使いの力の源ははじまりの樹の加護による魔法を元にしておりはじまりの樹の魔法使い達が力をつければその分絶園の魔法使いも力を増す……。
そして最も衝撃的な事実、自ら「探偵」を気取った愛花が導き出した「不破愛花殺人事件」の犯人、それは――彼女自身であるということ。
まるでちょっとおつかいに行って来る、位のノリで自らの最期の場所へ赴こうとする愛花の姿に、それまで圧倒されていた葉風も遂に奮起。愛花の死が、吉野と真広をどれだけ傷つけその運命を狂わせたかを説き、愛花を踏みとどまらせようとしますが――逆に「吉野さんを泣かせたんですか!」と、ぶん殴られたーー!?
初めて人間らしい感情を見せたのが「吉野を泣くまで追い込んだ事への怒り」だという所が、逆に泣かせてくれます……。10歳の頃から絶園の魔法使いとしての自覚が芽生え、世の理の何たるかを知り、年不相応の知識と思考を持ってしまった事から他者から畏敬の念を持って接されてきた愛花。その彼女に、初めて「護ってあげなくちゃ」と頓珍漢な動機から手を差し伸べくれた吉野と真広。愛花の中で、二人がどれだけ大切な存在だったのか、葉風をただ殴りつけたという事実だけで十分伝わってこようというもの。*1
自らの死がきっかけで、吉野と真広が世界を救う為に動き出すというのなら自分は喜んで自殺しよう。きっとあの二人は自分の行動を理解してくれる。――二人への揺るぎない信頼が愛花を死へと向かわせた。そして二人は愛花の信頼に応え、悲しみに歩を止めるような事はしないだろう。
だが、それを良しとしない人間がここに一人――はじまりの姫宮・葉風。理屈があってさえいれば、きっと真広も吉野も納得してしまう、その事は葉風にもよく分っているでしょう。しかし、彼女はそれを良しとしない。二人は確かに理屈さえあってしまえば自分の感情を殺す事が出来る稀有な人間だが、それは悲しくないという事ではない。吉野の中にどれだけの激情が眠っていたか、既に葉風は知ってしまっている。二人がこのまま人間らしい感情を殺して生きる位なら、自分が愛花を殺して憎しみの対象となろう――そんな決意の元、愛花へ立ち向かう葉風の姿に私の涙腺がテンペスト
結果として、理によってはじまりの姫宮は絶園の魔法使いに勝てない事が決まっており、葉風も愛花の意志を止める事は出来ませんでした。葉風に与えられたこの悔しさという感情もまた、はじまりの樹を倒す為に理が導いたものなのか? だとすればあまりにも、あまりにも人間の意志は弱く儚く、大きな流れには決して敵わないものだという事にもなり。葉風の絶望感は察して余りある……。

*1:逆に言えば、どこまでも超然とした愛花が感情を露にせざるを得ないほどに、「吉野が激情を表に出す」事がありえない事だった、という事にもなりますか。