たこわさ

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『時代が望む時、仮面ライダーは必ず甦る――。』 村枝賢一「新 仮面ライダーSPIRITS」第1巻 発売!

新 仮面ライダーSPIRITS(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

新 仮面ライダーSPIRITS(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

マガジンZ休刊で中断していた本シリーズ、月刊少年マガジン誌上で復活し、無事単行本第一巻が発売された。

2号ライダー誕生

仮面ライダーSPIRITS」と言えば、鬼才・村枝賢一氏によるオマージュ溢れる歴代ライダー達の活躍と、「不遇のライダー」仮面ライダーZXを見事に現代に甦らせた名作だが、今回発売の「新」*1第一巻は、TV放映時に語られなかった「仮面ライダー2号」誕生のエピソードの前半部分が収録されている。
仮面ライダーファンの方ならばご存知だろうが、2号ライダーは、1号ライダー役の藤岡弘、氏が撮影中の事故で大怪我を負った為の代打として登場した経緯がある。当時の撮影スケジュールの問題もあったためか、その誕生のエピソードについて作中では殆ど触れられて来なかった。それをこの連載再開を契機に漫画化した――というだけならば話はそれで終わりだが、「仮面ライダーSPIRITS」の愛読者諸兄は、「むしろ村枝氏は本エピソードを『SPIRITS』で描く事を大分前から考えていたのではないか?」という思いを抱いたのではないだろうか?
仮面ライダーSPIRITS」シリーズを通しての「主役」である滝和也も、藤岡氏の負傷により代打*2として生み出された存在であり、2号ライダーと共に物語を盛り上げていったキャラクターだ。1号ライダー退場と2号ライダー登場、具体的に言えば13話と14話の間に存在するミッシングリンクに、当然の事ながら滝も深く関わっている筈、と村枝氏が構想してもおかしくは無い。そして、「SPIRITS」は滝和也が歴代ライダー達と共闘する物語であり、その中において「1号2号と滝の最初の共闘」を描く事が出来たら、どれほどの興奮だろうか? と考えたのではないだろうか?
事実、本作では2号ライダーこと一文字隼人が改造手術を受けた時期を、滝和也登場の第11話近辺と同時期として描いており、TV版のエピソードと漫画オリジナルの展開をほどよくリンクさせている。読み進めながら何度も第11話の映像が脳内で再生される程に。

改造人間としての苦悩

さて、「仮面ライダー」をただのヒーロー物ではなく、カリスマ的存在たらしめている要素の一つにライダー達が抱く「改造人間としての苦悩」があると思う。ただ格好つけて「正義」を語り悪党を叩き殺す薄っぺらいヒーロー物とは違い、彼らは自らの存在そのものに「苦悩」する。
もちろん、子供向け特撮番組であるので、TV放映時はあまりそこを強調して描かれる事は少なかったが、作品の根底にあるものが、「人間でなくなってしまったものの苦悩や悲哀、そしてそれを乗り越える強い意志」である事には変わりないはず。そしてその「魂」とも言える要素が、「子供向け番組」の枷を解き放った本作では力いっぱい描かれている。
バケモノの体になっても心は人間のまま、自らの「もう一つの未来」であるショッカー怪人達を倒し続ける本郷猛。優し過ぎる彼にとって、その状況はまさに「地獄」。
自らの正義を貫いた結果、改造人間とされてしまった一文字隼人。思うように動かず「手探りしただけで全部ぶっ壊しちまう」体に、彼は「絶望」する。
その「地獄」と「絶望」を乗り越えて、力無き人々の為に戦い続ける彼らの「魂の叫び」が、紙面を通して伝わってくるかのようだ。

元祖ヒロイン

また、特に注目したいのが、ライダーシリーズの元祖ヒロイン・緑川ルリ子の存在だ。
彼女の父親は生化学の権威であり、ショッカーに協力して改造人間の研究をしていたが、教え子である本郷が改造されてしまった事を契機に組織を裏切り、そして殺された。この構図は、「ZX」のヒロイン(?)であるルミにも継承されており、村枝氏もそこを意識して彼女の存在をクローズアップしているようにも見受けられる。
その彼女の本エピソードでの役回りは非常に重要だ。彼女は、紆余曲折を経て本郷に淡い恋心を抱いている。しかも、薄々仮面ライダーの正体が彼である事にも気付いている節があり、そんな彼を支えたい一心で渦中に飛び込んでいく。そして本郷も、少なからず彼女の想いに救われているような描写さえされている。
改造され絶望にあえぎ苦しむ一文字を救ったのも、また彼女だ。改造手術の為に、触れたものを全て壊してしまう一文字の両手を自らの細い首に導き、仮面ライダー=本郷も同じ苦しみと戦ってきた、(同じ立場の)あなたに彼の力になって欲しい、と自らの命をかけて一文字に「道」を示した。
そして、両想いのようにも描かれつつも、改造人間である自分を自覚し周囲の人間から一歩退いた態度をとり続ける本郷の姿勢から、彼女の恋が悲恋に終わる事が想像され、そこにまた「改造人間とそれに関わった人々の苦悩」の匂いを感じてやまない。
TV放映時は、諸々の理由があったのか第13話を最後に登場しなくなる*3彼女だが、今回のエピソードでその辺りの物語も描かれる事を期待したい。

最後に

マガジンZ休刊から、月刊少年マガジンでの連載再開までの間に抱えてきたもやもやを全て吹き飛ばすような筆力迸る作品に仕上がっているこの「新 仮面ライダーSPIRITS」。今後も「熱い魂の叫び」に期待したい。
ちなみに、私的に今回もっとも興奮した要素は、なんと言ってもルリ子さんの超絶な可愛らしさである。黒髪ロングな活発で勝気な可愛い系美人お嬢様で更に悲劇ヒロインなんてもう最高である。
(了)

*1:ちなみに、何故わざわざ「新」と改題したのか私的にも疑問でしたが、巻末の早瀬マサト氏の解説によれば、村枝氏のオマージュ魂の結果だとか。詳しくは同解説を参照のこと。

*2:代打というよりは中継ぎが近いかもしれない

*3:そういった意味でも「悲劇のヒロイン」かもしれない。