映画 聲の形 オリジナル・サウンドトラック a shape of light[形態A]
- アーティスト: 牛尾憲輔
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2016/09/14
- メディア: CD
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饒舌な語り口で紡がれていた原作を、二時間程度の劇場映画で全て描き切れるのかと不安に思っていたが、蓋を開けてみれば原作とはアプローチを異にしながらも、そのテーマをきちんと貫徹した素晴らしい映画に仕上がっていた。
もちろん、数々の名エピソードがカットされているので原作ファンとしてそこを残念に思う気持ちはあるが、それ以上にアニメーション映画としての完成度の高さが目を引く、そんな作品だった。
(以下、ネタバレ含む感想)
本作は、主人公・石田以外の内面描写を極力言葉ではなく演出に頼った、「行間を読む」類の映画だった。
原作はデリケートなテーマを扱っているという事もあり、誤解を与えぬよう各キャラクターの内面を饒舌な言葉で描き尽くすエピソードがいくつか盛り込まれていたが、映画ではその辺りはバッサリカットされている。しかしながら、それでもって本作を「描写不足」と断じる事は出来ない。何故ならば、キャラクターの言動が、仕草が、表情が、そして彼ら彼女らがもたらした結果が、言葉以上に饒舌にその内面を語っているという、アニメーションという媒体を最大限に生かした演出が、全編に渡って繰り広げられていたからだ。
中盤までの本作は、お互いの言葉が違い過ぎて「伝える」事が出来ないもどかしさや、相手を深く知る事を恐れるあまりすれ違い、結果として悲劇を招いてしまう様を描いている。そしてそこから立ち直り、改めて主人公とヒロインが相手を、お互いを、友人達の事を知ろう、自分を知ってもらおうと決心する所までが物語の肝となっている。
「伝える」事と「知る」事、人間はそれを「声」に頼らなければ実現できない。「声」と言ってもそれは具体的な言葉だけではなく、行動であり仕草であり表情であり、実に様々な「形」がある。
原作では媒体の性質上、言葉に重きが置かれていたが、映画ではそれ以外の「形」が重視されていた。石田以外のキャラクターについては直接的な内面描写を控え、彼ら彼女らの言動や表情、仕草――「声なき声」からその内面が窺えるよう腐心している。つまりは「行間を読む」という姿勢が必要になってくる。言い換えればそれは、観客がキャラクター達の内面を知ろうとしているのか、この映画の事を知ろうとしているのか、その姿勢が問われているという事に他ならない。
単純にエンターテイメント性を追求した一般受けする作品を目指すのならば、そういった観客に問いかけるような姿勢は蛇足でしかない。全ての観客が前のめりに映画を楽しみに来ているのではない以上、もっと分かりやすい、表面的な装飾で塗り固めて「問いかけ」はその厚化粧の下に隠すべきだろう。
しかし、この映画の制作陣はあえてそれを選ばなかったのではないだろうか? 何故ならば、この映画は石田と西宮が「伝える事・伝えようとする事」「知ろうとする事・知る事」の大切さを身をもって実感し、お互いの絆を結ぶ物語だからだ。聞こえの良い言葉で取り繕う事は、彼らの決意と辿り着いた答えを愚弄する事に他ならない。
原作のテーマを大切にしたからこそ、観客にも「知ろうとする事」を求めた本作。そのメッセージが少しでも多くの人に届く事を願ってやまない。
その他、とりとめもない感想
- 私は西宮さん大好きなので、彼女の可愛らしさを全力で描いてくれた事が何より嬉しい。そして変に漂白しないで、彼女の卑屈さ、臆病さもきちんと描いてくれた事も。
- 原作では、小学生時代の石田が決して「いじめっ子」ではない事が明示されているが、上記の通り映画では行間を読まないと石田がどうして西宮さんにあそこまで激しく当たったのか分からないだろうから、その点が不安要素でもある。
- 同じ理由で、もしかすると何故西宮さんが石田を好きになったのか分からなかった人は多かったかもしれないな、とも思った。非常に分かりやすいのだが。
- 先生がクズのまま終わってしまったのはちょっと可哀想だったが、そもそも彼は元凶のようなものなのでまあいいか(酷
- 原作と同じく川井さんが怖くてしかなかった。ああいう善意の塊みたいな人に死ぬほど迷惑を掛けられた覚えのある人は多いはず。プラス方向に働けば強い味方なんだけど。
- 植野さんが悪役としてだけ捉えられてないか不安だったが、観測範囲内では好意的な感想が多かったので一安心。
- まあ、一番エロイし。
- 永束のいい奴度は原作200%増しだった。
- 結弦のイケメン度&可愛さは400%増しだった。
- 佐原さんもイケメンだったが、苦悩部分がカットされていたのはやはり残念か。
- 真柴の歪さがカットされていたのは少々残念。
- 石田ママ結婚したい。
- 西宮ママはいい感じに要素を抽出したな、という印象。
- 来場者特典は「これじゃない」という感想を多く目にしたが、西宮ママの補足としてはとてもいい内容だったのではないだろうか。
- 作品のテーマを考えれば、ラストシーンはあそこで適切だったのだろうが、やはり手を繋いで同窓会へ向かう原作のラストシーンが美しすぎたので、あの絵は欲しかったかも。
- 原作のあれこれがカットされている事を嘆いている方々は、作品を批判するのではなく絶賛して、ついでにテレビシリーズで完全アニメ化の要望を出すといい。
- 映画製作の件は一部キャラクターのオーバースペックがあからさまなのでカットして正解かも、とも思う。
聲の形 コミック 全7巻完結セット (週刊少年マガジンKC)
- 作者: 大今良時
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/12/17
- メディア: コミック
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*1:とは言え、うろ覚えの部分もあり、劇場から帰ってすぐに原作を読み返し、映画の完成度の高さに唸らされた。