たこわさ

アニメやゲーム、映画・本などのレビュー・感想・情報を中心にお送りする雑多ブログ。

一つの区切り「甘城ブリリアントパーク6」感想

最近はずっと短編中心でしたが、アニメが終わって一区切り付いたのか、久々に西也が中心の長編。物語全体としては第1巻の直接の続き、といった態。それだけに、彼やラティファも一つの区切りを付ける、そんなお話になっております。

(以下ネタバレ)

あらすじ

順調に進んでいたかに見えたパークの再建だったが、ここに来て大きな危機に直面していた。第二パークを大手小売りモルマートに売却し、数年後にはパークと提携した一大ショッピングモールにするという計画、それ自体は無事に軌道に乗っていた。だが、第二パーク売却の段になって、甘城企画から「次のシーズンの入場者目標は300万人」という非現実的な交換条件を突きつけられてしまったのだ。
甘城企画のバックには、日本のテーマパーク市場をデジマーランドと二分する大手「コズミックスタジオ」を擁する「コズミック・グループ」がいた。甘ブリの恵まれた立地条件に目を付け、それを狙っているという。その情報を西也達にもたらしたのは、「世界一のマスコット」と呼ばれるデジマーランドのマッキーだった。
マッキーはコズミックスタジオの勢力拡大を阻止する為に、甘ブリをデジマーランドの傘下におさめる提案を西也達にちらつかせる。自分達のバックアップがあれば、300万人も非現実な数字ではない、と。魅力的な提案ではあったが、デジマーランドに経営を委ねてしまえば今の甘ブリは確実に無くなり、キャスト達の大半もクビになるであろう事実を前に、西也は思い悩み体調を崩してしまう。

そんな西也を心配したのか、ある日ラティファが彼をお忍びデートに誘う。ラティファの楽しそうな姿に救われた気持ちになる西也だったが、それでも彼の心中にある「パークを、そしてラティファをいかにして救うか」という深い悩みが晴れる事はなかった。

ラティファとのデートのしばらく前から、西也の身にはある変化が訪れていた。ラティファから授けられた「一人に対して一回だけ心を読み取れる魔法」がいつの間にか「何回でも」使えるようになっていたのだ。しかし、その能力には大きな代償があった。それは、力を行使する度に、心を読んだ相手に対する知識・思い出が失われていくという恐ろしいものだった。しかし西也は、パークとラティファを救う為にその力を躊躇いなく使った。
まずは、力を駆使して甘城企画の北条代表の弱みを握り、脅迫に近い形で「300万人」という条件を撤回させようとする。作戦が成功するかに見えたその時、思わぬ横やりが入る。窮地に立たされた北条が連絡した相手――コズミック・グループ側の担当者は、西也にとって致命的な情報、かつてパークを救う為に秘密裏に行った不法行為の事実を知っていたのだ。動揺する西也だったが、彼は相手の正体を察していた。そう、コズミック・グループの担当者とは、名を変え暗躍していた栗栖――ラティファに呪いをかけた邪悪な魔法使い・イディナその人だった。

思わぬ敵の出現に追い込まれる西也だったが、更に追い打ちをかけるかのようにラティファの記憶が突然失われてしまうという異常事態が起こる。一年に一度のリセットではなくなぜ今? 西也達のその疑問は、名医オビザによっても解き明かされない。
ラティファを救う方法を模索する中、西也は栗栖の呼び出しに応じ彼と対決する。西也を挑発するつもりだった栗栖に対し、西也は魔法を駆使して少しずつ彼を追いこんでいく――記憶を失う事を恐れずに。その結果、栗栖からコズミックスタジオがデジマーランドと競合する形で甘ブリとの提携を行うよう譲歩を引き出す。更に魔法を使い、ラティファの呪いについての情報を引き出そうとする西也だったが、西也の能力を警戒していた栗栖=イディナは心を読まれる対策として、ラティファにかけた呪いに関する記憶を自ら消してしまっていた。

無力感に苛まれる西也だったが、そこに一筋の光明が。オビザによってラティファの記憶が失われたのは突発的なアニムス不足によるものだと判明した。しかし、パークには潤沢なアニムスが満ちており、何故ラティファだけがアニムス不足に陥っているのか、その理由は分からない。それを探る為に、オビザから魔力の痕跡を視ることが出来る眼鏡を託された西也は、ラティファの魔力を辿るうちに彼女自身の失われた記憶の集合と出会う事に――。

感想

……長すぎて「あらすじ」というかほぼネタバレになってしまいましたが、「ラティファの記憶」と出会った西也の身に何が起こるのか、その顛末は本編を読んでお確かめください。以下は、本編を読了した事前提でのネタバレ感想となります。




さて、今まで――第2巻以降はパーク全体を立て直すためにあれやこれや施策を立てたり従業員を増やしたり、その従業員個々のエピソードが展開したりと、基本的に同じノリの上で細々した要素が積み上げられてきました。しかし今回は、西也がパーク全体だけでなく自分自身と向き合う事を始めたり、ラティファの呪いや彼女の内面についてかなり突っ込んだ所まで語られたりと、一つの区切り、転換点としての側面が強いお話になっておりました。

特に顕著なのが、西也とラティファの関係に一定の区切り、答えが提示された事。「ラティファの記憶」――今までの彼女の記憶を持ったそれが、西也に対しての好意、それも決定的な、男性として彼を愛している事を告白。一年で記憶がリセットされてしまう事もあり、彼女が西也に対してどういう感情を抱いているかはいまいち不明でしたが、その答えがようやく提示されました。

それに対して西也は……答えをすぐに返せないというヘタレぶりを披露してくれました(笑)。もっとも、西也は「(今のラティファに)自分の想いを伝えた結果拒絶されたらどうしよう」という恐怖から答えられなかった訳ですが。何せ、西也に「好き」と伝えたラティファは今までの記憶を包括した存在であって、「今のラティファ」とは違いますから、「今のラティファ」も自分に同じ思いを抱いているのか分からない。でも、「拒絶されるのが怖い」「拒絶されたら立ち直れない」と言っているので、まあ深読みしなければ西也の気持ちはもう固まっているのでしょうね。*1でも、告白する事が怖くて怖くて仕方ないというのは、大人ぶってはいるけれども彼が年相応のナイーブな少年である事を端的に表しているのかな、と。

思えば、彼は今まで年齢に比しない重圧を一人で受け止めて来たんですよね。全てはラティファの為、パークのみんなの為。当然、そこには自分を労わるなんて考えは全くなくて、まさしく自己犠牲の塊でした。何かを犠牲にしなければ他人を救えない程度に彼は未熟で、彼は自分自身を犠牲にする事を選んだ。しかし今回、ラティファが記憶を失いかけた原因は、彼のそういった自己犠牲を貫く姿勢にあった。
パークを存続させても、結果ラティファが延命したとしても、彼女を本当の意味で「救う」事にはならない。西也が我が身を顧みない――今を楽しめていないのでは、ラティファも救われない、大切で大好きな西也に無理を強いてしまっている自分自身への嫌悪感・負の感情によってアニムスを失っていってしまう。それに気付いた事で、ようやく西也は自分と他人(特にラティファ)の感情を理解できるようになった。それだけでも彼が人間として大きく成長した事の、何よりの証左なのではないでしょうか?

しかし、「ラティファの記憶」から、彼女のアニムスが失われた原因が「いちばん大切で、大好きな人が」自身を労わっていない、ちっとも「楽しさ」を感じていないから、と明かされた事で結果的に判明した、重要な事実に西也は全く気付いていないんですよね。だって、ラティファは「大好きな人」が苦しんでいるからアニムスを失ってしまった訳ですから、それは「今のラティファ」が西也の事を「大好きな人」だと思っている事の証という事に。西也がその事に気付くまで、自分の気持ちときちんと向き合ってそれを伝える勇気を持つまでは、ラティファの憂鬱は続くのかもしれませんね。最後の「……はい」はきっと物凄くがっかりした、暗に西也を責めるような返事だったのでしょう。西也早く気付けw


しかし、こうなってくると、いすずは専門用語でいうところの「滑り台」直行になる訳ですが、周囲の人間はむしろ彼女こそ西也と「お似合い」だと思っているんですよね。西也のラティファへの想いは初恋の思い出や庇護欲、彼女の愛らしさから発生している訳ですから、相棒としての信頼関係やいすずが彼に向ける強い想い、ついでに周囲からの圧力によっては、いすずルートも十分にありえる――いや、私的には西也には一途でいてもらいたいんですが。乳袋さんなんていらないんや!w
で、いすずもそうなんですが、椎菜も西也の事が気になっているし*2、ミュースも周りが西也といすずをカップル扱いする事にモヤモヤとした気持ちを抱いていましたから*3、これは西也ハーレム構築へのフラグと考えてもいいのかも?(ぉ

ラティファやイディナの口から西也を「王」とするような発言も見受けられましたので、案外、西也王国と西也ハーレムが建てられるなんて可能性もなくはないかも……いや、やっぱりないか。

さて、今回は物語のターニングポイント迎えるような長編でしたが、あとがきによればまたしばらくドタバタした短編が続く模様。アニメの方はなんか微妙な終わらせ方をしてしまったので続編は望めないかもしれませんし、是非とも原作の方は息の長い作品になる事を期待します。


しっかし、「王の力」を持った少年が「盲目で体が不自由な少女」の為に策謀を巡らし我が身を犠牲にするって、ますますどっかのルルーシュさんだなぁw 第二巻以降そういった雰囲気は出していませんでしたので、今回は結構意識していたのかな、と邪推。

ところで、本編で会話中にだけ登場したキャラクターの名前が、某・最終巻で賛否両論吹き荒れた(というか私的には台無しになった)妹モノの糞ヒロインをもじったようなものだったんですが、オマージュだったりするんでしょうか? 私的には本編に登場して悪役として酷い目に遭ってもらいたい所です(コラ

*1:ただし、「今のラティファ」に想いを伝えようとしたときに「わからない」という言葉も入っていたのでミスリードという可能性も少しあるかもしれませんね。

*2:男性としてか尊敬する人物としてかは明示されていませんが

*3:そもそも、ミュースは西也がナルシスト発言をするまでは結構意識していた事を感じさせる描写があったんですよね。ナルシストという欠点を補って余りある現状において、彼女が再び西也の事を気にしてしまうのは自然な事なのかも。