たこわさ

アニメやゲーム、映画・本などのレビュー・感想・情報を中心にお送りする雑多ブログ。

竜ノ湖太郎「ミリオン・クラウン 2」感想――一真に突きつけられたのは「終わってしまった過去」と「誰も知らぬ未来」

ミリオン・クラウン2 (角川スニーカー文庫)

ようやく読了しました。
かなりのボリュームで、一言で言えば「大満足」でした。*1

作者氏のツイートを拝見したところ、一部書店では売り切れ続出とのこと。
やはりラノベ読者層の中にも、こういった「文字数と世界観の暴力」みたいな密度の濃い物語を求めていた人が多かった、ということでしょうか?*2

前巻を上回る376ページというボリュームに加えて、同作者の「問題児シリーズ」のオーディオドラマもおまけに付く*3という点も魅力的だったのかも。

(以下ネタバレ含む)

本作は、既に人類の文明がほぼ滅んでしまった未来が舞台。と言っても人々に絶望の色は無く、劇的に変わってしまった地球環境の中で、必死にあがいて生きている。
近年のラノベと言うと、アニメ化されている作品の傾向から見るに、「やり直し」*4だとか「チートで無双」だとか、比較的ストレスが少ないものが多い印象なので、この「絶望的な状況下の中でも必死にあがく」という世界観はもしかすると浮いているのかもしれませんが――私的にはそれがむしろ心地よく感じます。
壊滅し救いが残されていない世界観とも違い、「希望」も描いているところが好印象。

それを象徴するのが主人公の一真
世界が滅びる直前に眠りにつき、300年の時を経て蘇った彼にとって見れば、人類の滅びは「既に終わってしまったこと」。自分のうかがい知らぬところで、家族も友人も、みんなとっくの昔に死んでしまっている。彼にはその事実を、記録から「知る」ことしか出来ない。
親友の残した日誌から、友人達の苦難や死を知っても今更助けることは出来ない。何も出来ない。どうしようもない。

ひょんな出来事から発見した白骨死体の遺品の中に、片思いしていた年上の女性へ送ったペンダントがあっても……なにも出来ない。
全てはもう、300年も前に終わってしまっている。

それでも歩みを止めない、悲しみを持て余しつつも今生きている自分を無駄にしない一真の生き方が、なんというかこう、「主人公」だよなぁ、と。
この「ミリオン・クラウン」という作品を描く上で、本当によく設計された主人公だと感心するばかりです。

もはやどうにもならない「終わってしまった過去」を抱えつつも、決してやけっぱちになって「未来」を諦めたりしない。今、自分にできる最善を尽くす。
命をかけることはあっても、命を無駄遣いすることはしない。
そういったある種の哲学にしびれます。

あと、仏頂面なので分かりにくいですが、はっきりスケベなのも好印象ですね(笑)。
那月の胸の谷間をガン見しつつ、セクハラと言われかねないストレートな発言をしたり……。この辺り、「問題児シリーズ」の十六夜が口ではセクハラ発言しつつもちょっとむっつりな部分もあるのと好対照というか。

さて、今回は一真がいかにして300年の眠りについたのか? 環境制御塔の暴走はいかにして起きたのか? そして王冠種とは? 天悠種とは? といった世界観の根幹を成す要素について中心に描かれました。
ちょっと癖はあるけれども「人類」の仲間としては頼りになりそうな中華大陸連邦も登場し、少しずつですが世界の全貌が明らかになりつつあるようです。

「王冠種」たちが、ただ単に人類の天敵というだけではなく、霊長の座を争う知性体であることも判明。
やはりライバルは「物言わぬ怪物」よりも「時に言葉をぶつけ合う不倶戴天の敵」の方が燃えますよね!

直接的に物語が繋がることはないと明言されていますが、「問題児シリーズ」と重なる要素もちらほらと。
一真の母親は、「彼」の平行世界上の同一人物なんでしょうかね? 母親の旧姓から察するに、その兄弟と思しき博士なんかはもろに焔と同一人物っぽいですし。
「問題児シリーズ」で、神々が避けようとしてた「滅び」の正体が、本作で描かれるという感じでしょうか?
そう考えると、本作の世界自体が「神々からも見放されてしまった終わった世界」であるようにも思えてきますが……一真たちがそんな運命を吹き飛ばしてくれることを願いつつ、次巻を待ちたいと思います。

*1:とは言え、「ラストエンブリオ」と同じく「校正さん頑張って!」と言いたくなる誤脱が多かったので、角川さんはもっと作家とスタッフを大事にしてあげて下さいw

*2:私はもはやラノベ読みではないので、観測内容から推察するしかないのですが。

*3:期間限定のネット配信なのでご注意を。

*4:やり直し系作品も、一時期の「やり直しにより主人公が被る悲劇」とはまた違った方向に進んでいるように見受けられます。