たこわさ

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ヴァイオレット・エヴァーガーデン 第10話 感想と「代筆」という仕事について少々

今回の満足度:5点(5点満点中)
(以下ネタバレ)

あらすじ

病気がちな母と二人暮らしの少女・アンのもとに、「歩く人形」がやってきた。
彼女の名はヴァイオレット・エヴァーガーデン。アンの母が「ある大切な手紙」を書く為に雇った代筆屋――自動手記人形だった。

何故か代筆作業の間、アンは母親と一緒にいることを許されず、また誰宛ての手紙なのかも教えてもらえない。
ヴァイオレットを「母親との時間を奪う悪いやつ」と思いつつも、アンは浮世離れした彼女の雰囲気に不思議な親しみも覚えつつあった――。

感想

本作のテーマである「代筆」は、私の世代でもギリギリ、若い世代ならば殆ど見た覚えのない業種だろう。
もちろん、公的な書類などを代筆する職業は世にあるが、それとは違い個人的な想いを綴った手紙を代筆する事に、違和感を覚える方もいるかもしれない。

紙もペンもふんだんにある。
義務教育で基本的な母国語の読み書きの教育を受けられる。
日本や欧米諸国の若者たちが当たり前のように享受しているこの環境は、比較的近代になってからようやく成立したものであり、さらに言えば現代においても貧困国では子供達がろくな教育を受けられず、読み書きすらままならいことさえある。
学校はあっても紙もペンも無いので、砂を敷き詰めた板に棒で文字を書く子供達だっている。

殆どの人間が文章を自在に読み書き出来るというのは、実は凄いことなのだ。

だが、たとえ教育を受けていて読み書きが出来たとしても、想いを込めて、それを相手にきちんと伝えるという事は中々に難しい。
文章は教育を受ければ誰にでも書けるかも知れないが、「良い文章」が書けるとは限らない。*1

「たかが手紙を代筆なんて」という人間の中で、一体どれだけの方が本当の意味での「手紙」を書いた経験があるのだろうか?
少なくとも、私には全く自信がない(苦笑)。
本作に低評価をつける理由として「代筆」という行為を卑下する方は、よほど自信をお持ちなのだろうか……?


さて、長くなったがこの辺りで今回のエピソードの感想へ戻りたい。

今回、ヴァイオレットが向き合ったのは依頼主というよりもその娘アンであった。
人間的に大きく成長――というか本来持っていた人間らしい感情を、ようやく自覚するに至ったヴァイオレットだが、まだ彼女に足りないものがある。
即ち、「子供」という理不尽で不合理で、とてつもなく純粋な存在との触れ合いだ。

子供時代が実質存在しなかったヴァイオレットにとって、アンとの交流がただの経験以上の意味を持っていた事は想像に難くない。
まさか、最後に流した彼女の涙の意味を受け取れなかったという方はいるまい。

50年分に渡る娘への手紙を書き綴る事は、上記に書いたような理由がなくとも、体力的に消耗するものであっただろう。
それでも、成し遂げなければならなかった。
今は娘に誤解されても、彼女の長い長い人生の中で、少しでも自分の想いを汲んでもらえたら――娘が孤独でなくなれば、という母の強い愛を感じた。

野暮を承知で書いてしまうと、おそらく本エピソードは、難病に侵された親が子供のためにビデオメッセージを遺したという、一部で有名な実際のエピソードをモデルにしているのだと思う。
軽々しく描けない題材だけに、母親の内面描写は必要最低限とし、あくまでも娘であるアンを主軸として描いた所に、とてつもない思いやりを感じてやまない。

素晴らしいエピソードだった。

なお、現代日本を舞台にした「代筆屋」の物語としてはこちらを推薦しておきたい。
NHKでドラマ化されたこともあるので知っている方もいるかもしれないが……どこかアニメ化もしてくれないだろうか?

ツバキ文具店

ツバキ文具店

  • 作者:小川 糸
  • 発売日: 2016/04/21
  • メディア: 単行本

*1:SNS等でちょっと意味が分からない系の文章を書いている方、もしくは斜め読みして誤読する方などもいることを踏まえれば、なんとなく理解できるのでは?