たこわさ

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「X-MEN:アポカリプス」はシリーズの集大成! 遂にプロフェッサーの毛根が死滅した理由も明らかに!?(後半ネタバレ有)

Ost: X
本作は、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション(原題:X-MEN:First Class)」から始まった「X-MEN」新三部作の完結編という位置付けだが、ストーリー的には旧三部作の総仕舞いという性格も持っている。これは、前作「フューチャー&パスト(原題:Days of Future Past)」が新シリーズと旧シリーズのクロスオーバーという体裁を取っていた為。*1その事によって本作は、「前五作を観賞済みでないと全てを理解できない」という長期シリーズ特有の欠点を抱えてしまったのだが……逆に言えば、シリーズを通して観ている人間にとっては確かな満足感を得られる映画に仕上がっている。

監督は「X-MEN: ファイナル ディシジョン(原題:The Last Stand)」以外のほぼ全ての作品に関わっているブライアン・シンガーだけあって、シリーズ各作品で描かれた様々な要素を「伏線」として回収し見事に消化、いや昇華してみせた。
そして何故、あんなにフサフサだったチャールズ・エグゼビア教授(プロフェッサーX)の毛根が死滅してしまったのか、その疑問にも答えを出してくれた(笑)。

(以下、ネタバレ有り感想)
ミスティークことレイブンが米国大統領の命を救った事で、人類のミュータントへの認識は歴史改変前の旧シリーズよりは良くなっているが、それでも根底には偏見があった。大量破壊を行ったエリックへの恐怖は根強く、彼は正体を隠しながら妻子と慎ましやかな生活を送る事を余儀なくされている。「英雄」となったレイブンも人類を信用は出来ず、迫害されるミュータントを独自に救う生活を送り、エグゼビア教授は「エグゼビア・スクール」という「我が家」を得た事に満足してしまいそれ以上の手を打とうとしていない。つまり、本来存在するはずの「X-MEN」と敵対者たるマグニートーが共に世間から姿を隠した状態が続いていた。
そんな中、「最初のミュータント」であり、古代に「神」として君臨し数々の文明を興しそして滅ぼして来た超常の存在アポカリプスが現代に復活し、現代文明及びミュータント以外の人間達を滅ぼしあるいは支配しようと企む。エグゼビア教授ら人類に好意的なミュータントは彼の存在を知り対策を立てようとするが、アポカリプスに見いだされた四人の強力なミュータントは彼の配下となり人類に牙をむく。そしてその中には、不幸な行き違いから妻子を失い絶望してしまったマグニートーことエリックの姿もあった――というのが中盤までのあらまし。

そういった導入に加えて、スコット(サイクロップス)やジーン、ストーム等、旧作のキャラクター達が新たな姿で登場しつつ、その能力と経歴がお披露目されるシーンが続くので、人によってはややとっ散らかった印象を受けたかもしれない。が、ほぼ改変前の歴史に近いスコットとジーンとは違って、ストームについては見事なサプライズになっていたのではないだろうか? シリーズ通して頼もしい味方でありリーダー格であった彼女が、敵として立ちはだかる事になる、という演出は。

本作には、そういった旧作とのギャップによる面白味を狙った演出が各所に見受けられる。その最たるものは、物語を通して主役として描かれるレイブンの立ち位置、そしてジーンの存在だ。

レイブンは「英雄」と崇められながらも、世界に希望が持てず自分の道を見い出せずにいる「悩める主人公」そのものだ。その彼女が守る為の戦いを決意した事で、ようやく物語は動き出す事になる。
そしてジーン。旧作では二度の非業の死を遂げた彼女、その原因たる制御出来ぬ強大な能力「フェニックス」は改変後の歴史でも健在だ。そしてこの歴史では、アポカリプスの復活に呼応して、以前の歴史よりも早く彼女の能力が暴走し始めてしまう。そんな彼女が、スコットという自分を恐れないパートナーと、温かく見守ってくれる恩師エグゼビアのエールを受けてその力を解放するシーンは、紛れもなく本作におけるクライマックスシーンとなっている。シンガー監督の「ファイナル デシジョン」への強烈なアンチテーゼとも言えるシーンだろう(笑)。*2

そして旧三部作との対比だけでなく、もちろん新三部作の完結編としての心意気も忘れていない。その象徴的なシーンは、「エリック、お前チャールズの事好き過ぎだろう」という濃厚なホモ描写もとい回想シーンと、かつてエグゼビアがその身を案じ記憶を消した恋人モイラの再登場だ。

新たに得た家族を失い怒りと悲しみに震えるエリックは、今度こそ人類に仇なす破壊の化身マグニートーになってしまったかと思われた。だが、レイブンとクイックシルバー――実はエリックにとって最後の希望たる人物――の説得、そして何よりチャールズが危機に瀕する姿を受けて、彼は再びX-MENと共に人類の側に立って戦う事になる。……いや、正直レイブン達の説得よりもチャールズの事が心配で心配でたまらなくて翻意したようにしか見えない(笑)。
何せ、彼が最後の決断をする瞬間、思い浮かべたのはチャールズから掛けられた優しい言葉の数々だったのだ……あんたチャールズの事好き過ぎだろう、と。新三部作をとりわけチャールズとエリックの物語であると捉える腐った視点もあるようだが、奇しくも本作はそれを証明というか後押ししてしまったようにも思える。

そしてチャールズもエリックの事を大好き過ぎて相思相愛なのだが……どうか一般視聴者は安心してほしい、彼は恋愛的な意味ではきちんと女性が好きで、しかも女たらしのくせに実はピュアな部分を持っている事がモイラの再登場によって明示されるのだ。自分で記憶を消しておいて、でも未練たらたらでちょっとだけセレブロで彼女の様子を覗いた事があると明かされるなど、チャールズの人間的な部分を描く為のギミックとしてモイラは活躍してくれる。何より終盤のとある二人のシーンは、第一作好きな人間ならば涙を禁じ得ないもの仕上がっている。私的には本作で一番の名シーンだったと感じた。「ファースト・ジェネレーション観返したくなったじゃないかどうしてくれるんだコノヤロー」といった所だ。


そして本作は「完結編」としてだけではなく、「X-MEN」世界の次なる布石としての役割も担っている。

台詞無しのゲスト扱いではあったがきちんと登場してくれたローガン(ウルヴァリン)は、ヒュー・ジャックマンの「X-MEN」引退作となる予定である「ウルヴァリン」スピンオフ第三作への出演が決まっているし、「デッドプール2」や「ガンビット」の制作も予定されている。その三作はいずれも、恐らくは本作の歴史をベースに物語が描かれるはずだ。スタッフロール後の映像は、その三作のいずれかの伏線なのかもしれない。*3

冒頭にも書いた通り、長期シリーズ故に「一見さんお断り」感のあるストーリーになってしまっている本作。そのせいか、劇場での上映数もやや寂しい印象ではあるが、ハリウッド映画らしくBlu-ray、DVDは非常にリーズナブルなお値段で手に入りやすいので、ファンの方々にはぜひ、BOX片手に「布教活動」して、ファンのすそ野を広げていただきたいと心底願う。

追記

私的に少々不満だったのは、原作で好きなキャラであるサイロックの扱いが微妙だった事……だが、ラストシーンをみるに彼女の再登場は十分にありそうなので、次回は味方として登場してくれることを願う。

再追記

週末に他の方の感想を色々と拝見したのだが、多くの方が「これが第一作へ繋がるのか」といった誤解をされていて驚かされた。レイブンが英雄になっている通り、本作は「フューチャー&パスト」でローガンが辿り着いた「スコットもジーンもプロフェッサーも死んでいない新しい未来」へ繋がっているので、旧三部作には繋がらない。

*1:なお、このクロスオーバー及び作中に行われた歴史改変は、「大人の都合」で様々なキャラクターを理不尽に退場させてしまった「ファイナル デシジョン」への不満を解消する為でもあった。

*2:シンガー監督は、自身が降板しファンからの受けもよくなかった同作を心底不満に思っているらしい。

*3:ただ単に原作ネタへのオマージュの可能性もあるが。