たこわさ

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激闘の準決勝の行方は――「ちはやふる 31」感想

ちはやふる(31) (BE LOVE KC)

ちはやふる(31) (BE LOVE KC)

全国大会もいよいよ準決勝。強豪・富士崎相手に苦戦する瑞沢かるた部の運命や如何に――?
(以下ネタバレ)


肉まんくんの想い

富士崎の理音相手に苦戦する肉まんくん。その脳裏に浮かんだのは、いつの日かの太一と机くんと行ったカラオケでの出来事――太一が何故退部し、今何をして、そしてどうしてかるた部に戻って来られないのか、その胸の内を聞いた時の記憶。
それとなく示唆されていましたが、やはり机くんと肉まんくんは太一自身からおおよその事を聞いていたのですね。*1二人の太一に対する友情の厚さが、どれほど太一の心を救っていた事か。でも、それでも肉まんくんは太一を、そして千早を「助けたい」と願ってしまうんですな。誰かが誰かを助けるなんておこがましい事だと理解しつつも、それでも何か出来ないかともがき続ける。
本質的に瑞沢かるた部の中で一番優しいのは、多分肉まんくんなんじゃないかと思います。机くんやかなちゃんももちろん優しい人間なのですが、時に優しさ故の厳しさも持ち出す事がある。でも、肉まんくんは逆で普段は結構厳しい事を言う時もあるけれども、根底の部分でおおらかさを忘れない。結果的にそれで田丸妹を救った側面もありますから。瑞沢かるた部の「おかん」は、かなちゃんではなく肉まんくんなのではないかな、と。

しかし一歩届かず

肉まんくんの想いも空しく、富士崎との準決勝は3対2で惜敗。沈む部員達は今度こそ膝を折ってしまうかと思われましたが……そこに発破をかけたのが顧問である宮内先生!

終わってないですよあなたたち
優勝しか眼中にないほどいい気になりましたか
3位決定戦がありますよ
あなたたちが大好きなかるたがもう一回できるんです

流石は三年間、かるた部を見守ってきただけの事はあります。こういう時にどんな言葉が一番奮い立つのか弁えている。特に「あなたたちが大好きなかるたがもう一回できるんです」という言葉に痺れる。長年運動部の顧問をやっていた経験も生きてるんでしょうね。部活動にとって「負け≠終わり」である事を良く知っているからこそ出る言葉というか。

三位決定戦の相手は新の率いる藤岡東

残念ながら決勝で、とはなりませんでしたが、それでも千早にとって限りなく特別であろう藤岡東との――新との対戦。しかし、千早の様子は鬼気迫るものがあり、まるで対戦相手である新の事も見えていないような節すらあります。そんな千早の様子に新は思います。

千早はきっと
この全国大会できっと一度も
千早にならなかったんや

千早と会場で再会した時に覚えた違和感。千早が漏らした「(太一は)辞めちゃっていないんだ。でも気配は感じるの」という言葉の正体がこれでした。千早はずっと「瑞沢の主将」として戦って来て、ただの一度も自分の為の戦いをしてこなかったんですね。だから、念願であったはずの全国大会での新たとの対戦――しかも団体戦と言う特別な舞台にあっても、鬼気迫るかるたしか出来ず全く「楽しんで」ないし新の事も見ていない。
強い。強いけれどもこんなのは「千早」ではない。新を圧倒する千早ですが、それは本当の意味で彼女が望んだ勝負といえるのか?

カギを握る男・太一

その頃太一は、立ち会っていた名人と詩暢のテレビ番組収録が終わり、一人新幹線で帰路へとついていました。ですが、その心中では収録の時に見た様々なもの、そして名人から送られたある言葉がずっと渦巻いていました。

君も 持っているものを無視し過ぎだ

「努力の人」であるという詩暢。かるたに有利な才能を持たない太一にとっては、最も参考にするべき相手ですが、彼女のようにかるたに極限まで愛を注ぐ事は自分には出来ない。「ああはなれない」という諦観を見透かしたかのような名人の言葉。更に、こちらは冗談半分ですが、太一の親への感謝の念が薄い事をも指摘したその言葉。
この言葉が結果的に太一を、そしてかるたの暗黒面(笑)に堕ちた千早を救う事になるとは……周防名人、怖い子!
まさか名人の言葉から太一が母親に電話をかけて、しかもその母親が近江神宮での全国大会の様子を実況中継して、太一がいてもたってもいられなくてそのまま近江神宮に向かってしまう事に繋がるなんて! 多少の強引さを感じつつも、色々と伏線は張ってあったので「なるほど!」と膝を打ってしまいました。

そして……

いくら近かったからと言っても、太一が会場につくの早過ぎやしませんかね? 等と野暮な事を考えつつも、ここからの展開も実に面白かった! すぐに太一の存在に気付いた他の部員達と違って千早が全然気が付かない所とか、特に。良い意味でのじらしプレイでございました。
そのまま千早及び瑞沢が圧勝という展開については少々カタルシス不足なんですが……恐らくこの後の展開、再び千早・太一・新の三人が揃った時に何が起こるのか、を丹念に描く為の布石と思いたい所。

その他

無事決勝に進んだヒョロくんが本当に愛されててちょっとだけホロリ。やはり富士崎よりはヒョロくんたち北央に勝ってもらいたいですね。
あとは、女帝が間違えて太一の鉢巻きを千早に渡した事が判明した時の一同の反応が酷すぎて思わず爆笑。みんな揃って「不運の象徴」扱いって……いや太一ファンからもそういう目で見られてますけれども(笑)。
上記の通り終盤の展開がやや拙速かな、とも思いつつも、きっと次回以降の丁寧に描いてくれるものと期待しつつ、次巻を待ちたいと思います。雑誌連載分はこの続きが3月15日発売号に載るそうですが。

*1:ただし時系列的には結構後になったからの様子。