たこわさ

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「007 スペクター」感想 原点回帰ながらもクレイグ節は健在!

  • 満足度:5点(5点満点中)

ダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドもこれで四作目。今までの007とは一線を画すボンド像を創り上げ好評を得たこのシリーズだったが、ここに来て大きく「原点回帰」に舵を切った印象を受けた。
007と言えばお馴染みの「ガンバレル・シークエンス」*1が久々に復活、オープニング映像もボディライン露わな女性のシルエットが過剰にセクシーに舞い踊る伝統のアレに。そして何より、サブタイトルである「スペクター」とは往年の007ファンにはお馴染みの悪の組織の名称*2であり……旧シリーズからのファンには懐かしささえ感じる嬉しい要素ながらも、クレイグ版ボンドから入ったファンには不安を抱かせそうな要素が多い印象を受け、私的にも急激な方向転換をしているのではないかと危惧しながらの観賞だったが、ほぼ杞憂に終わった。
確かに、上に挙げたような旧シリーズを思わせる諸々の要素や、ド派手な破壊アクションで幕をあげる物語は今までのクレイグ版ボンド「らしく」はない。それは作中全体の傾向にも言えることで、ストーリーはどちらかというとコテコテの「王道」であり、アクションも爆発炎上が多めのド派手なものが多い。しかしながら、やはり前三作と「地続き」の作品であると感じさせる部分が多く、純粋な続編だと感じることが出来た。
(以下、「カジノ・ロワイヤル」〜「スカイフォール」のネタバレ含む)
本作は、今までのシリーズで「失い」「傷付き」「成長してきた」ボンドが、ある選択を勝ち取る話だと感じた。
クレイグ版ボンドには、とにかく哀愁というか「喪失感」のようなものが付きまとって来た。第一作で唯一真剣に愛した女性を失い、その復讐という意味合いも込めて任務に邁進したボンドは次第に一流のスパイになっていったが、「スカイフォール」では遂に母のように敬愛していた上司Mを守り切れずに失ってしまった。
Mの墓標のようにそびえ立つ爆破の傷も生々しいMI6ビルに象徴されるように、MI6が、00部門が存亡の危機に瀕する中、それでも「007」として頑なに戦い続けるボンドの姿はしかし、「カジノ・ロワイヤル」の頃のようにどこか青臭さを残したそれではなく、シリーズを通して成長したもの以外の何物でもない。前三作の、アンニュイささえ漂うあの雰囲気があったからこそ、今回のボンドには魂がこもっていると感じられる。ある種予定調和の結末も、今までのシリーズを通してボンドが得た「答え」だと思えば、なんとも重く受け止めざるをえないものだ。

しかしながら、そういった「ジェームズ・ボンド」という人間について丁寧に描いた分、やはり王道以上ではない脚本は物足りなくも感じた。前三作のように、もう少し奇をてらってもよかったのではないかと思える部分――例えば登場した瞬間に「あ、こいつ悪党だ」と分かるCの件などについてはもう一捻りあってもよかったのではないか、とも思うが、そもそもC役にアンドリュー・スコット*3氏をキャスティングしている時点で狙っているとしか思えないので、言わぬが花なのかもしれない。

「007/スペクター」オリジナル・サウンドトラック

「007/スペクター」オリジナル・サウンドトラック

*1:映画冒頭の銃口越しにボンドが現れ銃撃してくるあの一連のシーン。

*2:「スペクター」という言葉に聞き覚えの無い方にも、「膝にペルシャ猫を乗せた男がボスの組織」と言えば通りがいいだろうか。

*3:同氏は、英ドラマ「SHERLOCK」で敵役モリアーティを演じている。