たこわさ

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Fate/stay night [Unlimited Blade Works] #17「暗剣、牙を剥く」感想

原作プレイ済み。映像化作品全て視聴済み。
(以下ネタバレ)

あらすじ

ランサーの助力を得た士郎と凜は、彼にアーチャーの相手を任せ自分達はキャスターを倒すべく教会内部に潜入する。しかし、相手は強大な魔力を持つキャスターと圧倒的な格闘戦能力を持つ葛木、どう考えても士郎達に勝ち目はない。だが、凛には必勝の策があった。その策を実行に移すべく、凜はキャスターを挑発し、士郎はアーチャーの双剣を投影し葛木相手に時間を稼ぐ。

一方、アーチャーとランサーの勝負は以前のそれとは様相を異にしていた。初戦では拮抗していたかに見えた二人の実力だが、その時のランサーは自身のマスターから「相手を倒さず生還しろ」という令呪での命令を受けており、本気を出していなかった。弓兵が接近戦で槍使いに勝てる道理はない――制約を受けないランサーの槍は、次第にアーチャーを圧倒していく。アーチャーの剣を見切ったランサーは、彼の剣には「決定的に誇りが欠けている」つまりアーチャーは英雄の器ではないと指摘する。しかしアーチャーはそんなランサーの言葉を一笑に付し、「誇りなど持たなくとも結果で評価される」「誇りなど犬にでも食わせてしまえ」とランサー――クーフーリンにとって禁忌である「犬」という言葉を使い挑発する。
アーチャーの挑発を受けたランサーは、ゲイボルクの真の能力を発動する。必殺必中の槍であるゲイボルクだが、間合いの外の敵には届かない。だが、ゲイボルクの真価は投擲時にこそ発揮される。投擲されたゲイボルクは一人の敵ではなく一軍を貫く「対軍宝具」となる。飛来する必殺必中の槍に対し、アーチャーは己の持つ「最強の盾」を発動する。「ロー・アイアス」――トロイア戦争の英雄アイアスの盾を基とするそれは「飛び道具に対して無敵」であるはずだった。しかし、ランサーのゲイボルクの威力はそれをも上回りアーチャーに深手を負わせる。ゲイボルクを称賛しつつも不敵な笑みを崩さないアーチャーを不審に思うランサー。だが、アーチャーの言葉にランサーは彼の真意を悟る――「キャスターの監視の目が止まったぞ」。

キャスターと凜の戦いは一方的なものになっていた。空中から魔術を連打するキャスターに対し、手持ちの宝石を駆使してその攻撃を凌ぐ凛だったが、次第に追い詰められ防戦一方になっていた。僅かなスキを突き、自らの最強の攻撃力でもって反撃するも、キャスターに容易く防がれてしまう。勝利を確信したキャスターは床に降り立ち、万策尽きうつむく凜に対し自分と魔術戦を繰り広げたその実力を冷笑交じりに称賛する。しかし、それこそが凜の策だった。空中からキャスターを引きずりおろし、魔術戦ではなく肉弾戦に持ち込む……それが凛の策だった。格闘に対して無力なキャスターを魔力を込めた拳法で圧倒する凛。一気に形成は逆転し、瀕死のキャスターを前に凛は勝利を確信する。しかし、そこに士郎を打ちのめした葛木が恐るべき速さで駆け付け、凛をただ一合で無力化する。
再び危機に陥る凛と士郎。しかも葛木には油断も慢心もない。今度こそ万策尽きたかと思われた時、地下礼拝堂にアーチャーの声が響き渡った。キャスターと葛木を狙う宙に浮かぶ無数の剣。アーチャーはそれを撃ち出す、「トレース・オン」という士郎のものと寸分違わぬ詠唱と共に――。

感想

他のアニメの感想でもそうですが、あらすじについては意図的に長く書いている部分があります。同じ作品を観ても個々人で感想が異なるように、ストーリーの流れについても注目する場面や印象的な台詞、柱となるストーリーはどの視点で語られたものだったのか等、驚くほど認識にずれが出る場合があります。なので、上記のようにあらすじをまとめることで、「私はこういう風に物語を読み解いたよ」という事を予め提示した上で、感情的・分析的な部分を「感想」と銘打って書いている、と受け取っていただければと思います。……どのくらいの方がうちの感想を読んでくださっているのかは不明ですがw

さて、今回はアーチャー対ランサーの再戦や、圧倒的実力差がある相手に決死の策でもって挑む凛と士郎の奮戦など、前回とは打って変わってアクション満載かつ物語が目まぐるしく展開するエピソードでございました。
目玉は何といってもアーチャーとランサーの超絶戦闘! 接近戦で弓兵相手に苦戦したり、セイバー相手に防戦一方になったりするなど、あまり強い印象が無く宝具だけチート、というイメージのあったランサーですが、ところがどっこい今までの彼は全く本気ではありませんでした。初戦ではマスターの意向で偵察任務に徹する為に「戦うけれども倒さず倒されない」という難しい状況を強いられていたランサー。「必殺必中の槍」であるはずのゲイボルクがセイバーに躱されてしまったのは、セイバーの直感スキルと幸運ステータスの高さが占めるウェイトが大きかったものの、もしかするとその事が一要因になっていたかもしれませんね。
そんな訳で、苦戦を強いられるアーチャーでしたが、今回も彼の「曲者」振りは健在でした。恐らく、あのまま消耗戦を続けていれば最終的にランサーが勝っていたと思われます。しかし、アーチャーはわざとランサーの誇りを傷付けるような言動を繰り返し、結果的に彼が宝具での一撃必殺を選ぶように誘導しました。ランサーも自分が乗せられている事は分かっていたでしょうが、彼自身が語ったように「英雄」という存在は何よりも誇りを重んじるもの……というか誇りを失った時点で最早英雄でも何でもない、ただの人殺しに落ちるわけで。だからこそ、ランサーの誇りを汚すような尋常の勝負を禁じる命令に対しては、彼のマスターは令呪を使わなければいけなかった訳ですね。

ちなみに、その「誇り」を重んじる英雄達の姿はスピンオフである「Fate/Zero」にもしっかり受け継がれていましたね。策を弄する事を良しとせず、あくまで尋常な勝負を繰り広げることに固執したセイバーとランサー。戦術を駆使するのではなく、あくまでも真正面からの突撃――征服に拘ったライダーとそれを真正面から受けて立ったギルガメッシュ。誇りや理想、栄誉を尊重するからこそ彼らは英雄たり得る――そういった意味で言えばZeroは「英雄とは何か」という命題を語りつくした作品、と言えるのかもしれません。

話を本編に戻しましょう。

そういう訳で自らの英雄としての矜持からアーチャーの挑発にあえて乗ったランサーは、彼の英雄の証たるゲイボルクの真の能力を解放しました。神話によればゲイボルクにはいくつか特殊能力があり、例えば一度穿てば対象の体内をズタボロにする呪い、転じて一撃で死に至らしめる能力なんてものがあり、恐らく接近戦での「因果逆転の槍」はこちらをモデルにしているのでしょう。ですが、ゲイボルクの主な能力というのは実は投擲の方なんですよね。アーチャーが語ったように、ゲイボルクの原典(オリジナル)は北欧神話グングニルだという説があります。グングニルは主神オーディンの武具で、一度宙に放てば必ず敵を貫きその後に持ち主のもとへ帰ってくるという魔法の槍。対するゲイボルクは、必中という点を受け継ぎつつ、放たれると無数に分裂(沢山の矢が放たれるという説もあり)し一軍に降り注ぐ、という能力があると言われています*1。今回、ゲイボルクが教会一帯を爆散させるような威力を発したのは、ここら辺の逸話を基にした設定・描写でしょうね。ランサーの手元に健気に(笑)戻っていったのも、その辺りに由来しますね。

対して、そのゲイボルクを完全ではないまでも防いだアーチャーの「ロー・アイアス」は、トロイア戦争の英雄アイアスが、敵軍の強戦士が放った槍を、動物の皮を幾重にも重ねた自慢の盾で防いだ逸話を具現化したもの。本作では何だか物凄く格好良くアレンジされていますが、神々の武具とかそういった強力なものではなく、あくまで人間レベルの強力な装備なんですよね、私の記憶が間違っていなければ。あと、アイアスって結構外道だった記憶があるんですが、もしかするとアイアス違いかもしれません。*2

ゲイボルクの圧倒的破壊力とロー・アイアスのカッチョよすぎる展開シーン、そしてそのせめぎ合いは本作でも屈指の作画&演出でしたね……。原作でもこのUnlimited Blade Worksルートにおける最高のシーンの一つでしたから、スタッフ力の入れ所分かってるぅ! そこにしびれる! 憧れる! という感じ。

しかし……アーチャーにとってはあれも宝具ではなく武装(?)の一つってんですから、ある意味彼はギルガメッシュ並みのチートキャラですよね。まあ、旧TVシリーズで描かれたFateルートではバーサーカーとの一騎打ちで敗れたりしているので、相性の問題とかもあるんでしょうが。――ちなみに、ディーン版のアーチャーは格好いいポーズ(笑)とか決めたりしていますが原作に基づく描写じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!

さてさて、アーチャーとランサーが熱すぎる戦いを繰り広げる一方、地下礼拝堂では凛と士郎の悲愴な戦いが……というか、凛は作戦通りに行動したのに士郎が時間を稼ぎきれなかったので、悲愴というか士郎のポカで詰んでしまった戦い、と言った方が正しいか(笑)。まあ、冷静な判断を下せる葛木が士郎ではなく凛の方に敗因を見出していたので、士郎よりも凜の方が責任のウェイトが重かったのかもしれませんが。遠坂家伝統の「最後の最後でポカをおかす」という呪いレベルの遺伝が発揮されちゃった、とも言えますね。
なお、魔術で強化していたとはいえ、凜があんなに体術に優れているのはどっかの八極拳の達人である似非神父が片手間にし仕込んだからとかなんとか。つーか、凛は最初から体術と魔術を組み合わせて戦った方が強いんじゃ?w

ともかくも、凛のなんちゃって八極拳でキャスターを追い詰めたものの葛木にひっくり返されてしまって大ピンチ。そこに颯爽と現れるダークヒーローアーチャーさんの飛剣が極悪キャスターを串刺しだぁー!――などというノリにはならず、むしろキャスター側に同情したくなる展開でした……。キャスターは卑怯ではあったけれども、結局最後まで非道ではなかったんですよね。彼女はただ、泡沫のような儚い願いが少しでも長く続くよう願った悲しい女でしかなかった。葛木も、殺人道具として育てられ空虚な人間未満の何かとして生き続けた自分自身に初めて生まれた「願望」を叶えようとした、一人の男に過ぎなかった。もちろん、彼女らを殺さなければ士郎達の方が殺されていた訳ではありますが。唯一の救いは、キャスターの願い――葛木という愛する人に寄り添う事が既に叶っていたという事は同時に「キャスターの願い」を叶えるという葛木の「願望」をも叶えていた事になる、という点でしょうか。故郷に帰る事よりも葛木を選んだキャスターの、その切なる願いを葛木が理解していたと信じたい所。

そして、キャスター達の退場をきっかけに遂にアーチャーがその本性を現しました。「衛宮士郎を殺す事。それが守護者となってまで叶えたかった目的」と語ったアーチャー。この発言と二つのペンダント、「トレース・オン」という士郎と共通の詠唱、ついでに以前に凜が士郎とアーチャーに含みのある言葉を向けていた事実を合わせて見えてくる真実は……。

*1:ただし原典のケルト神話にそういった記述があるかどうか、私はちょっと自信ありません。英雄の武器は得てして後世に逸話が盛られたりするものです。

*2:ギリシャ神話には他にもアイアスと呼ばれる人物がいたり。