たこわさ

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終わりの始まり「ちはやふる」27巻 感想

ちはやふる(27) (BE LOVE KC)

ちはやふる(27) (BE LOVE KC)

衝撃の引きだった26巻。さて、この27巻では果たしてどんな展開が待っているでしょうか?
(以下ネタバレ)
太一の退部により「背骨」を失った瑞沢かるた部。せっかく新入部員が入ったものの、今まで部長である太一に頼り切っていた他の部員たちには、どうやってみんなをまとめればいいのか分からない。それでもそれぞれが自分のできる事を頑張り、上手くいくかに見えたが――大きな問題が二つ。
一つは新入部員の一人、田丸妹。A級選手である彼女は実力こそ確かだったが、自己中心的な性格でかなちゃん達先輩のいう事を聞こうとせず、自分勝手に物事を進めようとする。
もう一つは、千早の不調と休部。太一に突き放されてしまった事で、ようやく彼の気持ちを理解し始めた千早。源重之の歌の「岩」と「波」のように、太一という名の波はひたすらに心を砕いて千早の事を思い支えてきたのに、自分はそんな彼の気持ちに全く気付かない、「波」砕くだけの「岩」だった、と。それに気付いてしまった今、どうして太一がかるたを出来なくなってしまったのか、その事を思い知った千早は自身もかるたが出来なくなってしまいました。

瑞沢かるた部始まって以来の危機であり、千早と太一がかるたが出来なくなるかどうかの瀬戸際。この難局を彼女らはどうやって乗り越えていくのか? その端緒が今回既に描かれています。

かなちゃんの戦い。机くんの勇気

部活については、かなちゃんを中心に上級生たちが奮起しました。田丸妹のせいですっかりかき回されてしまった部内の秩序、いったん崩れてしまったそれを取り戻す為に彼らが選んだのは新入部員達と距離を詰めて話す事、彼らがどんな人間でどんな価値観の持ち主で何を思っているのか知る事。ただそれだけで、淀んでいた空気が吹き飛んでしまった。……それでも、清流に棲めない魚のような存在が一人。田丸妹は和気藹々としつつもきちんと部活としてのけじめのある空気に耐えきれず、逃げるように早退してしまいました。
皆を照らす太陽と月――千早と太一がいなければやはり自分には何もできないのか、がんばれないのか、無力感を覚えるかなちゃんでしたが、彼女にだって支えてくれる人がいます。

僕はがんばれるよ
笑わないでね
ぼくの月も太陽もかなちゃんだから
がんばれるよ

机くんのあまりにも正直な、そしてだからこそ心を打つその言葉に、かなちゃんはどれだけ救われた事でしょう? そして何気にどストレートな告白の言葉に、かなちゃんはなんて答えたんでしょう?(笑) かなちゃんの流した涙と紅く染まる頬、そして再び一緒に歩き出す二人の姿を見るに……まあ勘繰るのは野暮というものでしょうね。というか肉まんくんェェェ……w

「チーム」を求め行動し始めた新

千早と太一を再びかるたの世界に戻す役割は、どうやら新が担うようです。千早と太一が自分をかるたの世界に戻してくれた、個人戦だけではなく団体戦の楽しさも見せてくれた。彼女らと同じ風景を見たい、と決心した彼の一大決心――自らかるた部を立ち上げる事。自分は既に三年生だし以前の失敗もあるけれども、それでもがんばって部を立ち上げようと奮戦する新。天然だけど恥ずかしがり屋な彼が、袴姿で全教室を勧誘して歩くなんて偉業(笑)を成し遂げられたのは、ひとえに千早と太一への「愛」故に、でしょう。変な意味ではなく。
結局、新は千早の事も太一の事も大好きなんですよね。例え千早関連のあれこれで太一を追い詰めるだけ追い詰めていたとしても、彼本人には全く悪意はない訳で――いやもちろん読者的にそれを許せるかどうかは別の話なんですが――むしろ太一を全面的に信頼していたからこそ彼に自分の千早への想いを正直に伝えた訳ですし。彼の中では千早と太一はイコールなんですよね。もちろん、恋愛感情を除けばw
誰よりも信頼している二人だからこそ、例え二人がかるたから離れている理由が分からなくても、必ず戻ってくると信じているから、わざわざ二人に「かるた部を作った」というメールを送った。二人ならきっと自分の声を聞いてくれる、想いを受け取ってくれる、と。
そしてそれは間違いなく千早に届きました。

奮い立つ千早

かるたを休み持て余したリソースを勉強に向けた結果、教師たちに心配されるほどに成績を伸ばした彼女ですが、それはやはり後ろ向きな成長な訳で。教師になりたいという彼女の進路に近付くことはあっても、その理由とはどんどん離れていく。
そんな時に届いた新からのメール。

かるた部作ったよ
近江神宮で会おう

それを見て千早の脳裏に急速に蘇る言葉。

新は必ず戻ってくるから
強くなってあいつを待とう

それは、かつてかるたから遠ざかっていた新を信じて待とうと言った、太一の言葉。新への絶対的な信頼を込めた、その言葉。
千早は自分達がかるたから遠ざかっている事を新が知っているなどと露にも知りませんが、それでもまるで自分達の状況を知っているかのような彼からのメールはまさに福音だった事でしょう。太一が、そして自分が新を信じて待ったように、今度は自分が太一を信じて待つ番だ。だから立ち止まってはいられない。
……相変わらず新の言葉を自分にとって都合のいい燃料にしているきらいはありますが……それでも今回の千早の判断はきっと間違いではなく。

そして太一は

傷付けられ、そして傷付け、無力感とも虚無感ともつかない感情を抱えたまま受験勉強へ逃げる太一。予備校では誰もかるたの話も部活の話もしない、そんな当たり前のことに憂鬱な自分を隠せない。
そんな中、突然彼の前に現れたのは名人・周防。塾講師として現れた彼にとって、太一は顔見知りの「A級の人」。かるたを止めた太一にとって彼は、もはや関係のない他人。それなのに周防の言葉が、存在が気にかかって仕方ない太一。そんな彼の無言の眼差しに気付いていたのか、太一が他人に誘われるままにヘッドフォンを――かるたをやる人間にとっては禁忌なそれを――受け取ろとしたその手を止めた周防。そして正体不明の衝動に突き動かされ彼を追った太一に対し、その心中を見透かしたかのような言葉を投げかける。

君は かるた部はやめたの?

えらいなあって思ってたよ
あんな かるたを心底好きな人たちのなかにいるのは
きつかったよね
君はかるたを好きじゃないのに
好きじゃないのに
すごくがんばって
えらいなあって思ってたよ
それでも耐えるくらい
好きだったんだね
あの人たちが

――認めたくなかった。決して認めたくなかった、自分がかるたを好きではない事を。認めてしまえば、もうあの人たちとは一緒にいられない。あのかるたを心底好きな、自分が大好きなあの人たちの傍には。しかしそんな自分を見透かされてしまった、よりにもよって「かるたを好きじゃない」のに「畳の上では無敵」な名人に。
かるたを好きじゃない自分を認めてしまえばもうあの大好きな人達の傍にはいられない、かるたは続けられない。でもそれでは、今まで彼を支えてきたあの言葉が、「呪い」になってしまう。

青春全部懸けたって強くなれない?
まつげくん
青春全部
懸けてから言いなさい

自分を励ましてくれた原田先生の言葉を「呪い」にしない為に、周防のあとを追いかける太一。その理由はきっと後ろ向きなもの。それでも、彼を突き動かすものはきっと別の何か。新のメールを受け取った時、太一は周防と共にいた――予備校ではない、別の場所で。
太一は決して石でなんかできていない。それでも……。

26巻とは別方向で非常に気になる引き方です。28巻発売は7月13日予定とのこと。楽しみに待ちたいと思います。
→28巻感想書きました。