たこわさ

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アルドノア・ゼロ EP23「祈りの空 -The Unvanquished-」感想

1クール目視聴み。
(以下ネタバレ)

あらすじ

クランカインの手によって救出され月面基地から逃れたアセイラム姫は、戻るよう進言するスレインと決別し、唯一信頼できる軌道騎士・マズゥールカと合流する。マズゥールカが忠義からだけではなく、姫の身を案じる伊奈帆の想いを受けて自分に助力してくれた事を知り、アセイラム姫は改めて伊奈帆への想いを噛み締める。
今すぐにでも戦争を止めたいアセイラム姫だったが、殆どの軌道騎士は地球への恨みを抱えており、スレインの唱える新王国という免罪符をも得て勢いづいている状態であり、最早アセイラム姫の言葉だけでは戦いは止められない。一計を案じたアセイラム姫は、祖父であるヴァース皇帝に直談判するが、皇帝は余命いくばくもなくその意識も朦朧としており意思疎通さえ出来ない状態だった。混濁する記憶の中、息子を失った悲しみ、地球への恨みと共に、かつて彼が持っていた「アルドノアの力で人を幸せに導く」という思想を語る祖父の姿に、アセイラム姫はとある決意を固める。

一方その頃、地球連合軍とスレイン率いる軌道騎士との間で最後の総力戦が行われようとしていた。今までの戦い、そしてアセイラム姫を救出する為に義眼の力を酷使し過ぎた事で伏せっていた伊奈帆だったが、アセイラム姫から託された「何か」を成し遂げるために再び立ち上がり、戦場に向かう。
軌道騎士を率いるスレインもまた、決意を固めていた。アセイラム姫に去られ、戦いの道を突き進む事だけが残された彼は、総力戦の裏で軌道騎士達による地球への直接攻撃を実行すべく、呼びかけを始める。「地球人に戻る場所を失う気持ちを味あわせる」という自分の考えを騎士達に喧伝しようとしたその時、突然放送がジャックされる。
全ての帯域を使った海賊放送を通じ、演説を行うアセイラム姫。自分の足で立ち上がり、自らがスレインの奉じていた「アセイラム姫」とは別人――即ち今までの姫は偽者――である事を暗にアピールし、彼女は宣言する。自らがヴァース皇帝の後を継ぎ女王となることを、王族の総意として地球との和平を望む事を、そして王権を盤石のものとする為にクルーテオ伯爵の名を継いだクランカインを夫として迎える事を――。

感想

地球への憎しみの言葉に混じって発せられた、祖父がかつて抱いていた理想――アルドノアの力で人を幸せにする――を受け、自らが「王」という装置になる決意を固めたアセイラム姫。間接的ではあるにせよ、伊奈帆と気持ちを通じ合った彼女ですが、どうやら個人としての想いの結実よりも、王家としての責任を果たす事を選んだようです。……実に悲しい決断です。彼女の決意によって、地球と火星にとっての最悪のシナリオは回避されるかもしれませんが、「物語」の結末はある種の悲劇に終わってしまいそうです。

クランカイン=クルーテオ伯爵を夫に迎えるのは、彼女の台詞にもあったように、彼の地位と人脈の全てを自分のものとする為なようですが、やはりクルーテオ伯という存在はヴァースの中でもかなり上位にあったようです。クランカイン自身は実質上、皇帝の勅使として遣わされたようですし、先代クルーテオは姫に付き従って使節団の一員として地球を訪れた=恐らく姫に次ぐ立場の使節であった、と推測されます。なので、少なくとも名家の跡取りとは言え元地球人であり勝手に独立を宣言したスレインよりもクランカインの方が、本国での影響力は遥かに強いのでしょう。

しかし、車いすから立ち上がるという演出で、今まで表に出ていた「アセイラム姫」と自分は別人である事をアピールし、更に「新王国」ではなく「ヴァース本国」の女王(女皇?)として即位するという、自らを最前線から一歩退いたところに位置づけ、地球側の譲歩を引き出しやすい状況へと誘導するという一連の手際は、見事の一言。ただ、その手際が見事であれば見事であるほど、彼女が滅私奉公の想いから「我」を捨ててしまっているのだな、という覚悟が浮き彫りになり、なんとも悲しい気持ちになります。

さて、アセイラム姫が固い決意を表明した一方で、伊奈帆とスレインはと言えば……伊奈帆は傷付き倒れてもアセイラム姫から託された「何か」を為すために再び戦場に舞い戻り、スレインは……最早アセイラム姫の為でもなく、また自分の欲望の為でもない、望まれる機能を果たすただの装置になってしまっているようです。ザーツバルムやレムリナなど、自分を愛してくれた人々を裏切ったツケを支払う時が来ているというか。アセイラム姫の命を守ろうとするあまり、彼女の理想を裏切ってしまった「罪」に対する「罰」を受ける時が来たというか。

ただ一人、飾らないスレインの本音・苦悩を聞いてきたエデルリッゾは必死に弁護してくれましたが、彼の内面が全く変わっていないのだとしたら、それはそれでアセイラム姫にとっては悲劇以外の何物でもない訳で。

なんか本当に、自分の恋心を原動力としながらも、常にアセイラム姫の理想を守る為に奮戦してきた伊奈帆とは対照的な存在になってしまいましたね、スレイン君。「どうしてこうなった」かは、視聴者が一番よく知っている事と思います。何せ、伊奈帆はアセイラム姫を最優先としながらも、同じレベルで仲間達の事を大切にしていましたからね……。死地に赴くにあたっても、韻子やカームと笑い合い再会を誓う伊奈帆と、傍らに肩を並べる人間は皆無というスレイン、こちらの構図もまさに対照的。


さて、次回はいよいよ最終回。アセイラム姫の決断によって、少なくとも最悪の悲劇は免れそうですが、最前線で戦っている人々があのまま争いをやめるとは思えず、少なくとも軌道騎士達はスレインに殉じてしまうのではないかと思います。地球を蹂躙するという悲願を叶える為の大義名分を奪われた訳で、地上への総攻撃はおそらく行われないのでしょうが。
そして、冒頭でも書いたように、アセイラム姫が「王」という装置になる事を決意してしまった今となっては、彼女が伊奈帆と結ばれる未来は最早訪れる事はなく、「二人の物語」は悲劇――悲恋として幕を閉じる事になりそうです。まあただ、アセイラム姫は本心ではスレインの事も救いたいと願っていたでしょうから、自分が伊奈帆を諦める事で、スレインを一方的な負け犬にしない、という意図もどこかにあるのかな、と。

私は、個人が悲劇を引き受ける事で世界が悲劇から救われる、という類の結末があんまり好きではないので、よっぽど上手く描いてくれないとこの作品に対する評価が一段下がってしまいそうですが、はてさてどうなることやら。良い意味でのどんでん返しがあるのではないか、という僅かな希望も捨てずに最終回に臨みたいと思います。

特殊エンディングの、最早叶わぬ伊奈帆・アセイラム・スレインの三人が笑顔で並び立つ光景が、なんとも悲しい。