たこわさ

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魔法少女まどか☆マギカ[新編]反逆の物語 感想その3

キュウべぇが起こしたバイオハザード - シロクマの屑籠
上記エントリに思う所があったのでちょっとだけ。
(以下ネタバレ)
上に挙げたシロクマさんのエントリーで語られている「キュウべぇ=養豚業者」という説は、まどマギ界隈では恐らくそんなに目新しい解釈ではないとは思うが、中々に良くまとまっていて、丁度観賞二回目で思った事も書きたかったので便乗してしまおうと思う。

禁断の果実に手を出したキュウべぇ

さて、TV版最終回でのキュウべぇインキュベーターは、神=まどか=円環の理によって「魔法少女を生み出す存在」そして「魔獣を倒した際に発生する『何か』*1を回収する」という役割を与えられ、存在する事を許された。もちろん、キュウべぇの存在を抹消してしまっては今まで存在した魔法少女達の「切なる願い」まで消えてしまう事になるので安易に消す事は出来なかった、という都合もあるだろうが。
何にせよ、インキュベーターは家畜だと思っていた実は神だった存在に救われた――エネルギー回収という彼らの目的も奪われなかった――と言える。

感情を持った人間ならば、自分達の存在を安堵してくれた神への感謝と畏れの念を抱くのだろうが、ところがどっこい彼らインキュベーターは感情などという「訳が分からない」ものは持ち合わせていなかった。その為、ほむらというこの世で唯一まどか=神=円環の理を知る魔法少女を餌に、壮大な実験を始めてしまった――それがパンドラの箱だという事を知らずに。

結果はご覧の通り、まどかによってその存在を許されていた身分から、ほむらによって呪いを回収する道具として使い捨てられる存在へと貶められてしまった。その様はバベルの塔か、はたまた太陽に挑んだイカロスか、禁断の果実を口にし楽園を追放されたアダムか。それとも飽くなき好奇心と闘争心から、自分達を滅ぼしかねない禁断の領域――核開発に踏み込んでしまった現代の人類そのものか。

全てを救ったまどか、まどかとその周囲の世界を救ったほむら

さて、お次は二回目の観賞を経て、改めてほむらが作った世界に対して受けた印象を。

上記の通り、まどかの再構成した世界とほむらが再構成した世界とでは決定的な違いがある。まどかは自分自身が犠牲となる事で全ての存在に救いをもたらした。一方ほむらは、同じく自己を犠牲にして――絶対悪の象徴として君臨する事で全ての穢れを受け止めて――世界を改変したが、作品ラストで描かれたようにキュウべぇはボロ雑巾のように使い倒され*2、彼らによって切なる願いを叶えた魔法少女達の想いも無かった事にされてしまった(11/10訂正)*3

彼女にとってはエントロピーの増大も歴代の魔法少女達が抱いた切なる願いも関係ない。「まどかがまどかのままでいる事」が最優先だった。そして優先度こそまどかに劣るものの、彼女にとって数少ない「仲間」であったマミや杏子、さやか、ついでにベベ(なぎさ)が穏やかな、普通の少女としての人生を歩む事も彼女の願いに含まれていたであろうことは、改変後の世界で少女達が笑顔とともに過ごす姿を見れば想像に難くない。
彼女は何故そんな暴挙に出てしまったのか? それは作品を観ていれば明白であろう。彼女は知ってしまった。全てを救うため、人間としての人生を捨てて親しい人々と別れ、神となる。それは辛さ、悲しさ、寂しさを抱えながらもそれを実行してしまえる「まどかの強さ」があったから為しえた事なのだと――本当は辛くて辛くて泣きそうだったのに。神となったまどかの笑顔の下に隠れる感情に気付けなかった――そんな自分が許せない。それが、ほむらを狂気ともいえる「愛」の道へと誘った。

そして、それは同時にほむらとまどかの決定的な別れをも意味する。

ほむらは、まどかを自分好みの無垢な少女として傍に置く、都合のいい世界を実現する事も出来ただろうが、彼女はそれをしなかった。何故ならば、彼女の切なる願いとは「まどかがまどかのままでいてくれる事」だったから。しかし、その結果何が起こるのか?
物語の最後、ほむらの問いにまどかは「正しいやり方を守らないといけないと思う」と答えている。その答えに涙するほむらは「あなたはいつか私の敵になる」と告げた上で、自分が身に付けていたかつての世界でまどかのものだったリボンをようやくまどかの元へ返した。
ここに、ほむらの最初の願い「まどかとの出会いをやり直したい」は成立した。そして同時に「まどかの最高の友達」であるほむらも、ほむらがまどかを救うために無限の時を繰り返した過去をまどかが知る事も無くなった。そして、ほむらは今や悪魔――まどかの標榜する「正しさ」の敵であり、つまりはまどかの敵でもあると言える。
ラストシーンでほむらはなんとも邪悪な笑みを浮かべている。あの笑みは、まどかがやがて彼女の信念である「正しさ」の為に自分を討ちに来る事を楽しみに待つ意味合いに見えて仕方ない。
まどかの手によって彼女が討ち果たされる時、本当の意味でほむらの願いは叶うのかもしれない。自己を犠牲にするのではなく、「悪」を倒す事でまどかが世界に救いをもたらす日こそが。

カラフル(期間生産限定アニメ盤)

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*1:キュウべぇとほむらの会話からあれは一種のエネルギーである事が示唆されている。

*2:あの描写には他の解釈の余地もあるが、ここでは使い倒されボロ雑巾になったものと仮定する。

*3:初見ではさやかにしかソウルジェムが見当たらなかったけれども、マミと杏子もソウルジェムを身につけていることを確認しています。ただし、なぎさは付けていませんでした。なので少なくともマミ達三人は魔法少女である可能性は十分にありえるので、彼女達の願いが本当の意味で無かった事になっているのかは不明。少なくとも、魔獣は存在する世界なので、彼女らも何らかの役割を得ていると考えた方が自然かも。