- アーティスト: Kalafina
- 出版社/メーカー: SME
- 発売日: 2013/10/02
- メディア: CD
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(以下ネタバレ)
最初に言ってしまうと、私は既存の『劇場版「空の境界」』シリーズがあんまり好きではありませんでした。特に「矛盾螺旋」は原作の長尺をまとめるという難作業への同情心を加味しても「駄作」としか感じない程度に低い評価を下していました。
そういったあれやこれやを踏まえての今回の新作、正直不安も大きかったのですが――それは杞憂に終わりました。実に面白い。なんだこれ。
もちろん、原作に当たる中編「未来福音」がドラマとアクションのバランスが程よく、ストーリーの仕立て方も演劇的というか、映像化するにあたって大きな障害のない筋立てだった、という事も手伝っているのでしょうが、それを差し引いても出来が良い。それは何故かな、と考えてみると三つほどの理由に行き当たりました。
一つ目は、キャラクターの心情描写を映像表現だけに頼らないでモノローグを多用した事。奈須作品の持ち味って地の文でのキャラクターの内面吐露の比重が大きいと思うのですが、今までの劇場版ではそこの所を頑張って映像で表現しようとして結果的に人によって受ける印象が全く異なるような、居心地の悪さを感じてしまう所が多かったんですよね。あとは、伝聞の形で描写されるからこそ生々しく(気持ち悪く)感じない部分を、わざわざ映像でじっくりたっぷりねっぷりと描写してしまってバイオレンスな色味が強くなってしまったり。*1今回は語り部たる二人の「未来視」が実に饒舌に語ってくれたお陰で表面的な心情については視聴者への印象のブレが少なくなって、その分映像の方ではもう少し細かい機微について満足に描写できていた印象。
二つ目は、キャラクターの描き方が実にコミカルだったこと。既存の劇場版のお耽美な雰囲気も嫌いではないのですが、そもそも「空の境界」という作品自体がやや感傷的に過ぎる類のものなので、絵柄までそこにどっぷり浸かってしまうとややしつこいな、と感じていたので今回位あっさり目に抑えてくれた方が胸焼けせずに済んだ、というか。特に静音の小動物っぽい雰囲気は他のキャラクターと比べて浮いてしまわないギリギリのラインで描かれていて、実に絶妙。
三つ目は、これは身も蓋もない事なんですが、実に原作に忠実な脚本であったところ。原作の完成度が高かったのでいじり様がなかったのかもしれませんが、既存の劇場版は結構ドラスティックな改変というかアレンジが多々見受けられたので*2、ここに来てようやく奈須作品と制作スタッフとの歯車が噛み合ったな、と。
このクオリティで「Fate/stay night」の再アニメ化もやってくれると型月厨としては非常に嬉しいところです。
来場者特典の短編小説もゲットしましたが、まだ読了していないので感想については機会があれば、また。