たこわさ

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俺妹12巻感想その2 もう一つの解釈と気持ち悪さの理由

少し落ち着いて他の方々の感想なども拝見したところで、穿った見方をしてみようと思います。
感想その1は→「遂に最終巻「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」12巻 感想 - たこわさ」。簡単にあらすじもまとめてありますので、ネタバレだけしたい方はこちらをどうぞ。
(以下ネタバレ)

2013/6/14追記

【コラム・ネタ・お知らせ】 俺の妹がこんなに可愛いわけがない最終巻 伏見つかさ先生へ「ラストについて」「次回作」などインタビュー! - アキバBlog
上記記事で、「完全なる桐乃エンド」という事が作者自身によって明言されてしまったので、事実上「その他の好意的解釈」は意味をなさなくなってしまったかもしれません。となると、12巻全体に漂う唐突感や展開のまずさは作者さんの力量の賜物だという事になり……残念ながら感想その1で書いたような「最後の最後で駄作になった」作品という結論を下さざるを得ないようです。

上記を受けて・総括

下で色々書いていますが、作者さんの言葉で全て否定されてしまいました。なので、ここで最終的な総括を簡単に書いておきたいと思います。

実妹エンド自体は実は(気持ち悪いけど)一つの結末として有りだとは思います。しかし、本作には一番大切な「近親相姦に対する葛藤・背徳感・両親や世間への罪悪感」そして「京介がいつどこで妹へ告白を決意したのか」という描写が決定的に不足していました。両親に至っては、地味子さんに指摘されるまで京介の主観には一切登場しませんし、その際「オヤジを裏切った最低野郎」などと自覚しながらもその後の彼の言動は論理もへったくれもない自己正当化に終始しています。「桐乃を(全ての偏見から)守る!」とは言わず「桐乃を選ぶ!」という言葉を使っている事にも何やら矛盾を感じます。何も考えないで妹への劣情だけに正直に生きるつもりか、と。

京介が「信頼できない語り手」であった事は、愛読者にとっての共通認識だったと思います。妹の事を嫌いだとか散々言っておいて、その実重度のシスコンである事を自覚していた、という事は諸々の言動から読み取れます。それはいい。もっと言えば、例えそれが兄妹という枠を超えた恋愛感情だったとしても、矛盾点は結構出てはしまいますが、京介の言動を巨視的に見ればあり得ない事ではないでしょう。

妹を恋愛的な意味で好きだ! なるほど分かりました。では、京介くん、君が社会性も倫理観も両親の信頼も恋人も捨てて妹を選ぶ、その決意はどの時点で固めたの? この疑問に作者は答えるどころか、京介に「全部言わなくてもいいだろう?」などと言わせ語る事を拒否しています。

多分それはそんなに難しい事じゃなかったはずです。京介に一言、「いつ決断した」のかを明言――もしくはそれを匂わせる発言を――させればよかった。*1本当に簡単な事だったはず。ミステリで言えば、京介の本心を隠したツンデレ語りは伏線、妹との恋愛の結実は犯人当て、では種明かしは? 犯人をどうやって突き止めたのかの説明は? 何もありません。投げっぱなしです。

「人が殺された! 何だか色々証拠らしきものが沢山あるが、何がどうなっているのかはよく分からないぞ!」
「ふむ、方法は分からないし根拠もないけど貴方が犯人です」
「はい私がやりました」
「これにて一件落着!」

こんなミステリがあったら本を投げるどころか焼き捨てますわ。
黒猫に「自分と桐乃どちらを選ぶ?」と問われた時、既に京介の中では妹が最優先だという認識が生まれています。しかし、この時点で妹へ告白する事を決意していたとしたら、黒猫に対する未練がましい言い訳の数々に矛盾が生じます。黒猫を振る時に、「先延ばしにしていた」という文言はありますが、全ての障害を越えて妹に告白しようと決意した後に、黒猫に期待させるような言葉――桐乃との事がちゃんとするまで誰とも付き合う気はない――を吐くでしょうか? 京介はそんな最低な男だったでしょうか?

京介は、どこか常識外れな所こそありましたが、基本的に誠実な男でした。だから、様々なヒロインが彼に好意を抱いた。多分、桐乃もそんな兄の事をずっと見ていたから好きになったのでしょう。*2しかし、最終巻から見えてくる彼は、果たして誠実と言えるでしょうか?

  • 妹への恋愛感情を自覚して黒猫を振ろうとしたのに、その数日後にはまだ黒猫にも芽があるような言い回しでお茶を濁す
    • 黒猫は京介と桐乃の本当の気持ちを知った上で茶番を仕組んでくれたのだから、彼女に対してはもっと真摯に対するべきだったのに、誤魔化して逃げた。散々引っ張って誤魔化し続けた挙句、一番傷付くタイミングで振った。しかもその事の罪悪感に一人酔っている。
  • 妹に告白するという事の重大さには全く気を払わず、「振られると思っていた」程度にしか認識していなかった。
    • 決定的に妹と絶縁するかもしれなかったし、もし妹が自分に兄以上の感情を抱いていなかったら、妹も深く傷付く結果になった、という事に対する思いやりが欠片も感じられない。
  • 地味子に言われるまで両親へのうしろめたさは欠片も見せない
    • しかもばらさないでと懇願までする。妹を守るどころか隠し通す気満々。ばれた時の事など何一つ考えていない。
  • 桐乃がいろいろ考えて(多分苦悩して)だした「期間限定」という苦渋の選択をあっさり覆して見せた(キスの一件)。
    • しかも妹の不安を取り除いてあげるでもなく、「兄弟なんだからいいだろ?」といつものツンデレ台詞で済ませる。ツンデレを堅守するならするで、もっと言い回しがあるだろう!


まあ、つまり一言で言うと「京介に誠実さの欠片も見いだせなかった」というのが致命的だった、となりましょうか。妹への告白も「兄妹だからとか関係ない。他人がどう言おうが俺がお前を守る!」とか決意表明してくれたらよかったのに、好きだとか結婚したいだとかそういう「一方的な好意」しか表明していない。妹の事なんて全然考えていない。

桐乃派の方々に問いたい。こんな奴が一生桐乃の恋人でいいの? 偏見から守る意志も表明しない、両親に立ち向かう準備もない、ヘタレの変態野郎に桐乃が一生縛られる、そんな終わり方で満足なの? 「何だかんだあっても幸せにやっていく」等という作者の投げっぱなし発言に違和感を覚えないの?

京介だけじゃなく、桐乃についても疑問が残ります。結局、黒猫とあやせの「宣戦布告」に対して堂々と勝負宣言したものの、最後まで桐乃は京介に愛される努力、もしくは自分からのアプローチはしませんでした。以前は、兄貴の情欲を誘ったり妹属性に染める為にゲームを押し付けたりと、激しいアプローチをしていたのに、さっぱり。しかも、「勝利宣言」を地味子さん相手にぶちまけるだけに飽き足らず、人格攻撃までやってのけます。桐乃大好きさん達は、こんな人格破綻者が好きなの? 桐乃の格好いい所が見たかったんじゃないの?

地味子さんの苦言を「京介を取り戻すための詭弁」と言う向きもあるのですが、京介が信じる地味子さんを信じられないのでしょうか? 京介は「信頼できない語り手」だから、地味子さんが兄妹の為を思って苦言を呈している、という京介の解釈も実はブラフだとか言うのでしょうか? あほらしい。

この最終巻を高評価されている方々は、概ね「作品のテーマを貫徹した」「安易なエンディングではなくあえていばらの道を行った」「京介の『信頼できない語り手』を利用した叙述トリックを成功させた」などというものですが……「妹が可愛い」が近親恋愛に直結するという発想がそもそも異常だし、「安易なエンディング」を選んでいないとは言うが上記のようにキャラクターの言動が支離滅裂だし、「叙述トリック」に至っては「種明かし」が皆無なのでそもそも成立すらしていません。丁寧に書き上げた? 冗談、一つの決まった結末の為に無理矢理つじつま合わせをした結果、つぎはぎだらけのボロボロな作品になってしまっただけじゃないですか……。

繰り返します。実妹エンド自体は否定しない。京介は今までの話を通じて妹への恋愛感情を確かなものにしていった、これも分かる。しかし、全ての社会的障害を乗り越えてまで妹への愛を貫くと京介が覚悟した瞬間はどこに? 自分の中にある両親への背徳感、社会的な倫理観とはどう決着をつけたの? 妹の人生を破壊するかもしれないのに、何故自分の想いを一方的にぶつけたの?*3 妹を全ての偏見から守る決意を持たずに告白したの? 桐乃は黒猫・あやせから「宣戦布告」された後に、京介に愛される為に何か努力したの? 京介は、妹の苦渋の決断を何故あっさりと覆してしまったの?

残念ながら、私のこれら疑問・感想について明確に答えてくれている高評価側のご意見・ご感想は見受けられませんでした。前々段のような片手落ちな主張ばかりです。その他は、まるで桐乃が地味子さんを嘲笑った時のような、「○○厨が負け惜しみwww」だとか「きりりん大勝利!」*4だとか的外れなものばかり。私が上記までのような質問を投げかけても、彼らからまともな答えが返ってきたことはありません。

最終巻に対して高評価をされている方々、お願いです。どうか私の目から鱗が落ちるような、擁護意見を述べてください。何年間も追い続けて、少なくない金額を投じた作品がこんな酷い終わり方をしてしまって、口惜しくてしょうがないのです。(了)


もういっそのこと「ゲーム版の各エンディングこそが真の結末」と考えてしまった方が精神衛生上良いのでは? というご意見多数……。

以下、作者コメントが明らかになる前の考察。すべて無駄でした。

京介は本当に桐乃の事を異性として好きだったのか?

恐らく、最終巻の展開に納得がいっていない方の多くは「京介は桐乃と一線越えるつもりは全然なくて、暴走気味だけどあくまで『兄貴として』妹の想いを最大限尊重したかっただけなのでは?」という願望と共にエピローグまで読み進めたのではないかと思います。結果として、そういった事を明示した言動は最後まで見受けられませんでしたが、どうにも違和感というか疑問が尾を引いたのも事実。そういったもやもやに対してある一つの解釈をid:foolisさんが提示されています。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない最終巻感想 - 雑記
確かに、地の文を読み解いていくと、台詞では「妹を異性として愛している」と叫んでいる割に淡々としているというか、「妹と恋愛なんてありえない」と語っていた頃の京介とあんまり変わらないような気もしてくるんですよね。
加えて、foolisさんが仰っているような「京介の意図を見抜いた上で汚れ役を引き受けてくれた麻奈実」の言動、更には「事前の打ち合わせも何もしていなかったし京介に振られる事が分かっていてそれは本当にショックだったろうに、何故か京介の『長い告白』をちゃっかり録音していた黒猫」の行動も合わせて考えると、色々と腑に落ちます。
京介は、本当の意味で「異性として」妹を愛する事はできない。

かといって、妹の自分への想いを打ち砕いて正常な兄妹関係を再構築する力量もない。
だからせめて、妹の気持ちは受け入れるけれども、「俺達が異性として愛し合うというのは、こういう事なんだ」と友人との関係も恋人との関係もズタズタに引き裂いて見せて、現実を直視させた。

そしてそういった京介の意図を半ば汲み取ったからこそ、桐乃は「期間限定の恋人ごっこ」という落とし所を自ら提示して見せた――兄から巣立つために、兄を解放するために。

そういった解釈をしていくと、エピローグの京介のキスも違った側面を見せてきます。「兄妹だから別にいいだろ」という京介の言葉は、桐乃が京介に対して後ろめたさを持たないように――恋人ごっこもシスコン変態兄貴の俺にはダメージなんてねえぜ!――と言っているようにも受け取られ……。まあ、その直前の地の文で意趣返しである事が明記されているのでちょっと苦しい解釈かもしれませんが。

じゃあ結局京介は誰が好きなの?

これについては、黒猫を振った時点では麻奈実なんだと思っていました。黒猫への恋愛感情は熱病に浮かされたような初恋のそれであって、「恋」ではあっても「愛」にはならないものなんだと。でも、上記のように京介の桐乃への告白が盛大な演技だったと捉えると、地の文で「恋愛的な意味で好き」「大切な人」「恋人」として語られているのは黒猫だけなので、やっぱり黒猫なのかな、とも考えられ。
でもやっぱり麻奈実も大切な人だろうし、結局京介の事を本当の意味で理解してくれているのはこの二人なのでしょうから、現時点の材料だけで判断するならばやはり「黒猫と麻奈実」と仮定するに留まる感じでしょうね。*5
もし、そうではなく10巻の時点で京介が桐乃の事を恋愛的な意味で好きだと自覚していたのならば、わざわざ黒猫に「桐乃とのことちゃんとするまで誰とも付き合わない」なんて「保留」の言葉を伝えたりしませんよね? あの時点で桐乃の事を好きな自分を自覚していて、それなのに黒猫に「しばらく時間をくれ」的なニュアンスの言葉をわざわざ伝えたのだとしたら、それこそ京介氏最低! という事になるし。

最終巻全体に漂う気持ち悪さの正体

さて、記事見出しにも書いたもう一つの命題「何故、多くの人が最終巻の展開に気持ち悪さを感じたのか」ですが、これについては私の感想その1でも書いたように、「京介の言動が全く理解出来ない」事に由来するのではないかと思います。つまり、語り部と読者の乖離が大きすぎた訳です。
そもそも、本作は京介の一人称で進むので「京介の内面はよく分かるけれども、他のキャラクターの言動は京介の色眼鏡を通してしか知りえない」という暗黙の了解の上に成り立っていました。もちろん、京介の内面であっても言葉が濁されて曖昧にされた部分は多少ありましたが、明示された部分については「事実」としておおむね受け取られてきたと思います。
それら「事実」の中でも繰り返し登場したのが「妹との恋愛なんてありえない」という言葉。これが殆ど何の前触れもなくいきなり崩れたので、急激に読者と京介との乖離が進み、結果として大きな違和感が生じた状態――「気持ち悪い」空気を生み出してしまったのだと思います。*6
id:aiphabateさんのエントリ俺妹最終12巻を読んでの遠慮ない感想 - 藤四郎のひつまぶしで語られている「信頼出来ない語り手」の件も併せて読んでいただくと伝わりやすいかも。
前項で仮定したように「京介はあくまで兄貴だった」という解釈を取るならば、読者と京介の間にできた溝はだいぶ狭まると思うのですが、結局京介の本心はよく分からないまま物語が終わり、結果として表面的に描かれている「京介が、家族を、友人を、恋人を裏切り、妹を取ったが、それも泡沫の夢で終わり彼の手には何も残らなかった」という誰も得をしないエンディングを迎えた事で、読者は鬱屈した読後感を抱えながら本を閉じるに至ってしまった。
とある桐乃派の方が「灰色の結末」みたいな事を仰っていたのですが、言いえて妙だな、と。
「スーパー京介」とか言っておきながら両親との対決(謝罪)を全力で回避した京介の態度も酷かった。まさか最終巻に両親共に不在とは思いませんでしたよ……。

どんな結末ならよかったのか?

これについては考えるだけ野暮というものですが、一番多くみられた意見は「京介が『妹が一番好きだけどあくまで妹として』と男らしく桐乃に告げ、恋愛的には他のヒロイン(誰でも納得)とくっつく」ENDが良かった、というものでしょうか。正直、私もそこが一番綺麗な終わらせ方だよな、と思っていました。
以下は、私が妄想していたエンディング。

桐乃が一番好きだけど「あくまで妹として」だと桐乃と●●●(ヒロインの誰か)に告白した京介。京介の本気の答えにようやく兄から巣立つ決意の固まった桐乃はアメリカへ――。数年後、京介も納得せざるを得ないような素敵な恋人を見つけた桐乃は結婚式をあげることに。式の最後の挨拶で、桐乃は兄の事が大好きで本当に感謝している旨を満面の笑みと共に京介に贈る。
その笑顔を見て、京介はこう思う――俺の妹がこんなに可愛いわけがない、と。

――妄想が過ぎましたかね? 蛇足で失礼。

ちなみに、電撃文庫ではWEBから読者アンケートを送れるようです。住所・氏名を入力する必要はありますが、ブログやTwitterで感想書くよりも確実に制作側に声が届きます。完結した作品なので今更事実は変わりませんが、「想い」を伝えることはできるかも。
http://dengekibunko.dengeki.com/
(ページ左側のメニュー「読者アンケート」から)

追記

あと、おそらく大概の人が察していると思うけど、アニメ二期で原作のいい所がガンガンカットされているのは、「あのエンディングに持っていくために桐乃の描写を多めにするため」だったんでしょうね。もちろん、尺が足りないってのが大前提なんですけれども、それでも取捨選択の条件はそこだったんじゃないかな、と。特に、アキバblogのインタビューで原作者に「全部カットしましょう」とか言われているあやせ関連が犠牲になってるような……。ついでに黒猫が沙織にお礼を言って沙織が思わず涙ぐんでしまうシーンがカットされているのは、原作通りのエンディングだと結局黒猫が望む結末は得られなかった訳だから、あのシーンの感動もしらけてしまうのでカットした、という所じゃないかと邪推。
まあ、なんというかやっぱり11巻までの丁寧な描写と比べると12巻は無理やり方向転換した上に出来が雑だったな、という印象が拭えない訳ですね。

https://itunes.apple.com/jp/album/irony/570071071?i=570071094&uo=4&at=1010lJJL
素晴らしかったこの主題歌も、今や薄ら寒さを感じます……。

*1:京介に「信頼できない語り手」を継続させるにしても、うまいやり方がいくらでもあったはず。

*2:しかし、桐乃が幼い頃に抱いた兄への恋愛感情をずっと維持できた理由も明かされていませんね。こちらは想像に任せる以外手段がありません。

*3:振られる可能性が高かったと思っていたわけで、自分の告白により妹の世界に劇的なダメージを与える事を認識していたはずなのに、それに対する配慮が欠片もなかった。

*4:既出のように、京介が最低男である事が判明してもなお、そんな男と恋愛が結実した事が桐乃にとって幸せな結果だと言えるのでしょうか?

*5:ちなみに私は比類なき黒猫派であり、麻奈実さんの序列はかなり下の方です。

*6:もちろん感想その1で私も書いたように「兄妹でガチに恋愛」という変態性愛に気持ち悪さを覚えた人もかなり多かった事でしょうが、そちらは既に語り尽くしているのでここでは割愛。