- 作者: 森山大輔
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2011/06/10
- メディア: コミック
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「過去は変えられないし、死んだ人間は生き返らない」
いたってシンプルであり受け入れざるを得ない一つの真理だけれども、それでも人間は「あの時こうしていれば」と考えずにはいられない。それは、人間の持つ克服しがたい「弱さ」に他ならない。
そんな「弱い」人間の前に「死んだ人間を取り戻せる『かもしれない』方法」が提示されたとしたら……?
柩姫ジュリの誘いにより、唐沢の――そして「記憶の外」に消えてしまった初実島の過去を追体験するリク。明かされる数々の真実と共にリクの目に飛び込んで来たのは、まるで自らの映し鏡を見ているかのような唐沢の姿だった。
同じなんだ…
オレと…唐沢のやってきたこと
ウソをつき…
周りからの手を振りはらい
一人で勝手に突っ走って
一人で勝手に自滅して…!
「愛する人を取り戻す」ただそれだけの為に沢山のウソをつき、他人を――そして自分までをも欺き続けたその先に待っていたのは、
ついたウソは
誰かを傷つけ
いつか自分の元に還ってくる
失ったものを取り戻そうとして、より多くの大切なものを失うという矛盾だった。
唐沢の姿を通して自分自身の「罪」を自覚し、その重さに耐え切れず、意識の底へと沈んでいくリク。そんな中、彼の目に飛び込んできたのは、同じく意識の底へと沈み行く有栖川レナの姿だった。
過去の初実島で、レナは己の失った「過去」と対峙した。
古い因習に捕らわれ続けた末に、周囲の環境ごと因習を破壊しようと、間接的に親しい人々を死に追いやった壊れた少女――それがレナの「過去」だった。今まで「過去」と切り離され、ある意味違う人格として生きてきた彼女にとって、自らの醜い正体は一体どれほどの衝撃であった事だろうか?
記憶の壁を越えて、彼女もまた自らの「ウソ」が還ってきたのだ。
そんなレナの姿をみてリクは思う。「なにもとりかえしがつかないのだから、償うにはこのまま自分達と言う存在が消えるしかないのではないか?」と。このまま意識の底へと沈行き、報いを受けるべきなのではないか、と。
しかし、寸前のところでリクは思いとどまりレナにすがりつく。
死ぬな!!
死んじゃだめだ
何があっても!!
後悔しかなくても!!
折れたら誰も許してくれなくなる!!
「過去は変えられない」し、「過去」にばかり囚われ「今」を否定しては「未来」など得ることは出来ない。唐沢は取り戻しようのない「過去」をこそ求め、自滅した。自らのウソに押しつぶされた。
リクも途中までは同じ道を歩んでいた。だが、唐沢と違い、彼には同じく過去に囚われた「共犯者」が存在した――即ち有栖川レナというパートナーが*1。
レナにすがりついたのは助けようと手を差し伸べたのか、助けを請うてしがみついたのか、あるいはその両方なのか……。その答えは、おそらくリクだけでは見つけられないものなのだろう。
二人を見守る唐沢志郎。既に意識の残滓と成り果て、消滅を待つばかりの彼が最後に見せたらしくない微笑に、どんな意味が篭っていたのか。それは言わずもがなというものだろう。
*1:唐沢とタカオも「共犯者」ではあったが、唐沢はタカオに「ウソ」をつき続け、またタカオもその「ウソ」に気付きながらも何も出来なかった。すなわち「パートナー」足り得なかった。