たこわさ

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「ウソ」の結末は……「ワールドエンブリオ」(7)

ワールドエンブリオ 7 (ヤングキングコミックス)

ワールドエンブリオ 7 (ヤングキングコミックス)

(以下ネタバレ)
「ウソ」によって間接的にとは言え吾妻を死なせてしまった陸。「もう誰も死なせないし失わない」と必死に歯を食いしばる彼ですが、残念ながら彼の吐いた「一番大きなウソ」は、容赦なく彼から大切なものを奪っていきました。
「成長すればいずれ天音姉になる」
そう信じて陸はネーネを育て続けましたが、では果たして彼女が「天音姉」になった時、元々あった「ネーネ」の人格はどうなってしまうのか? という事実に気が付きながらも、陸は目を背け続けました。
例え「ネーネ」としての記憶を保持していたとしても、「天音姉」になった時点で既にそれは「ネーネ」ではない。「ネーネ」として育んで来た人格は、事実上消えることになる。陸は、間違いなくその事に気が付いていました。
――気が付いていながらも、陸はネーネを大切に育てました。自分を「パーパ」と慕うネーネを。来るべき日、「天音姉」を取り戻す生贄に捧げるために。
しかし、陸はネーネを天音姉と再会するための道具としか思っていなかった訳ではありません。そもそもの出会いは「天音姉の手がかり」としてであり、自分を「パーパ」と慕う純粋無垢な存在を、いつしか彼は「家族」として扱い始めました。
「大切な家族」と「天音姉に再会するための生贄」。相反する二つの存在が、陸の中で両立していた事になります。
その「矛盾」を自覚しない事――それこそが、陸が吐いた「一番大きなウソ」と言えるのではないでしょうか?
唐沢に看破されるまでもなく、今までに陸は沢山の「矛盾」を抱えながら走り続けました。洋平から受け継いだ「魂」を尊く思いながらも、彼の「仲間」を欺き続ける矛盾。「これ以上ウソは吐きたくない」と願いながらも、生き残るために(あるいは生き残らせるために)ウソを吐き続けると言う矛盾。大切なものを取り戻す為に、今そこにある大切なものを犠牲にしようという矛盾。
もちろん、人間なんてものは少なからず矛盾を抱えながら生きていくものです。境界線をふらふらと彷徨いながら生きていくのが人間です。陸にだって、本来ならそれが許されていた筈です。ですが、彼は彼自身の抱える「矛盾」と向き合うことをしませんでした。自分に対する「ウソ」を重ね続けてしまいました。その行為がもたらす結果を、彼は知っていた筈なのに……。
せっかくレナが陸の事を名前で呼んだり陥落(とかいて「デレ」と読む)たりと、比類なき有栖川派の私としては喜ばしい要素全開なのに、全くそのことについて喜べる空気じゃない、そんな巻でございました(オチ)。