たこわさ

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森山大輔「ワールドエンブリオ」(6)

ワールドエンブリオ 6 (ヤングキングコミックス)

ワールドエンブリオ 6 (ヤングキングコミックス)

(以下ネタバレ)
「ウソ」には、二種類ある。即ち、「自分の為のウソ」と「他人の為のウソ」の二種類が。
主人公・天海陸は、今までに沢山の「ウソ」を繰り返してきた。その多くは、「自分の為のウソ」であり、それが彼や彼の周囲の存在に良くも悪くも大きな影響を及ぼしてきた。
そして第5巻において、彼は「他人の為のウソ」を吐いた。即ち、クラスメイトである吾妻結衣を「真実」から――危険から遠ざける為の「ウソ」を。
しかし、その「ウソ」を遠因として、彼女は命を落としてしまった。
もちろん、直接的な原因は、彼女がタカオと出会ってしまったり父親達が「虚」と化してしまったりしていた事なのだが、陸の「ウソ」が原因の一つであった事は紛れも無い事実だろう。
何故ならば、「彼女を巻き込みたくない」という陸の思いは、つまるところ「他人の為」ではなく「自分の為」であり、その為に吐いた「ウソ」も彼女を危険から「一時的に」遠ざける程度の効果しか生まず、彼女自身が本来抱えていた危険要素について何も解消できていない、それどころかその危険要素を強めてさえしてしまっていたからだ。
陸が「ウソ」を信じ込ませるために織り交ぜた「少しの真実」であるテレビの山の存在を知らなければ、結衣はタカオに辿り着く事は無かった。彼女の内面について、もう少し陸が踏み込んでいたならば、あるいは「虚」と化した彼女の父親の異変に気づく事が出来たかもしれない。あと少しの「真実」を持って、陸が結衣と接してさえいれば――。
そしてそれは、結衣と出会ってしまったタカオにも言える。
彼が度々口にする「俺は嘘をつかない。真実を捻じ曲げたりしない」という言葉。しかし、その言葉は結衣によって「ウソ」であることが見抜かれた。「”本当の事を言わない”だけ」だと。
結衣に「ジュリ」という、おそらくは彼にとってかけがえの無い存在の姿を重ね、心を開き始めていたタカオ。だが、彼と話す電話の声の主に念押されるまでもなく、彼自身も結衣を巻き込むまいと、「中途半端な真実」だけを彼女に見せつけ、距離を置こうとした。そしてそれが彼女を危機に陥れてしまい、タカオが結衣を真に救いたいと願った時には、既に手遅れとなってしまった。
第7巻に収録されるであろうエピソードの中で、タカオが陸に「アイツ(結衣)に中途半端なことを吹き込んだのはお前か」と憤るシーンがある。このタカオの憤りは、恐らくは自分自身への収まらぬ怒りにも起因しているのだろう。
作中、結衣の言葉で暗示されているように、陸とタカオの二人は、全く違うようでいてとても似通った存在だ。無くしてしまった大切な存在の為、陸は「ウソ」で、タカオは「本当の事を言わない」事で、他人の目を「真実」から遠ざける。
そして同じく結衣の言葉によって予言されていたかのように、二人は共闘する事となる。お互いに目的も性格も違う、だがとても「よく似た」二人の戦いは、結衣が願ったように良い方向へと進むのだろうか……。
二人の男に深い痛みと「何か」を残して逝ってしまった結衣。彼女に救いがあるとすれば、陸の紛れも無い「真実」の言葉によって、親友への最後のメッセージを送れた事と、タカオの「真実」に触れ、真に彼を理解できた事だろうか。それとも、それこそが最大の皮肉か。

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余談

森山氏の出世作クロノクルセイド」が新装版として発売されているようです。こちらも激しくオススメな作品ですので、是非。

クロノクルセイド 1 (ヤングキングコミックス)

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